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2026.04.23

国際私法の役割とは:知財から家族関係まで、越境時代に法の適用はどう調整されるのか

国際私法の役割とは:知財から家族関係まで、越境時代に法の適用はどう調整されるのか
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国が違えば、文化も歴史も、そして法律も異なります。それでも人や企業は自由に移動し、国境を越えて活動します。では、異なる法同士が衝突したとき、どの国のルールで物事を解決すべきなのでしょうか。国際私法は、その調整を担う分野です。知財の判例から国際結婚の問題まで、多様化する越境社会における“法のつなぎ役”を概観します。

外国から品物が届かない! どこの裁判所に訴える?

福井 清貴 私の専門は国際私法です。同じく「国際」と名がつくため国際法と混同されることが少なくありませんが、この二つは扱う領域も目的も異なります。

 まず国際法は、国家を主体とし、国家間の関係を調整するためのルールを主に指します。たとえば領土の境界線にまつわる紛争や関税に関する取り決めなど、典型的には国際問題が対象です。その際に基準となるのが、国家間で締結された条約や、長年の慣行から形成された国際慣習法です。つまり国と国のあいだで発生する問題を、国際社会共通のルールで規律するのが国際法だと言えます。

 これに対し国際私法は、国家ではなく「個人」や「企業」といった私人を主な対象とします。現代では、人も企業も国境を越えて移動したり、取引等を行うのが当たり前になりました。その過程において契約のトラブルや不法行為など、私人間で法的紛争が生じることはあります。国際私法は、こうした国境をまたぐ私人間の問題を、どの裁判所が扱い、どの国の法律を適用すべきかという観点から整理し、紛争解決を支える役割を担っています。

 ただし、私人間の民事事件を解決するにあたっては、国家を超えた強制力ある紛争解決機関は現状存在しません(国際司法裁判所は国連加盟国間の紛争を、国際刑事裁判所は刑事事件を扱います)。したがって、最終的にはいずれかの国が設置した裁判所で争いを解決することになります。

 その際にまず問題となるのが、「どの国の裁判所がこの紛争を扱うべきか」という点で、これは「国際裁判管轄」の問題と呼ぶことができます。日本にも国際裁判管轄のルールがあり、特に民事訴訟法3条の2以下に定められています。

 しかし「日本の裁判所で扱えるなら、日本の法律を適用する」というほど単純ではありません。国際取引を含む私人間の国際的関係については、当事者がどの国に所在しているか、取引の内容がどの国と深く関わっているか等に応じて、日本法ではなく外国法を適用すべき場合もしばしば生じます。この「どの国の法律を使うか」を決めるルールは、日本では「法の適用に関する通則法」という法律の4条以下にあります。この法律に基づいて事案に適用される法のことを「準拠法」といいます。この準拠法は、基本的には事案と最も密接に関係する国の法となることが通常です。

 さらに、どこかの国で勝訴しても、相手がその国に資産を持っていないことはあります。その場合には資産のある国で判決を承認・執行してもらわなければ実際の回収には至りません。国際私法とは、広い意味では、このような判決の承認・執行に関するルールまで含めて紛争の出口まで受け持つ分野なのです。

 ごく単純化した例を挙げましょう。日本の商社A社とイギリスのメーカーB社が商品取引の契約を結んだとします。しかし代金を払ったのにB社が商品を送らない事態が発生し、訴訟を検討しなければならなくなったとします。この場合、A社はどの国の裁判所で訴えればよいのでしょうか。そして、その裁判では日本法を使うのか、イギリスの法を使うのか。これこそ国際裁判管轄と準拠法の典型的な問題です。

 実務では、これらの問題を避けるために「この契約に関する紛争は東京地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」「本契約は日本法に準拠し解釈されるものとする」などと契約書に明記されることが一般的です。これを認めることを「当事者自治の原則」と呼びます。ですから、この原則に基づいて、事前に決めておけばトラブルは避けられそうに見えます。しかし、どんな事案にも当事者自治の原則が認められているわけではありませんし、当事者がそのような合意をしないこともあります。

 合意のない場合、もしA社が日本での訴訟を望むなら、日本の国際裁判管轄ルールに基づいて、まず日本で訴えを受理できるか、そしてそれが肯定されるならば、次に法の適用に関する通則法に基づいて、日本とイギリスの法(またはそれ以外の国の法)のうちどちらが事案に適用されるのかが決められることになります。ここで細かい説明はできませんが、この例においてはB社の商品が日本国内で引き渡される契約が締結されていたならば、日本での訴えは認められるでしょう(民事訴訟法3条の3第1号)。ただし、準拠法はイギリス法となる可能性があり(法の適用に関する通則法8条2項)、日本の裁判所でイギリス法に基づいて判決が下されることになりえます。なお、もしA社がイギリスで訴えを提起するつもりならば、イギリスで訴えが認められるかはイギリスの国際裁判管轄ルールに基づいて決定されます。これにより訴えが認められるならば、イギリスの準拠法決定ルールで準拠法が決定され、紛争が解決されることになるでしょう。

 私人間の紛争の場合には、概ね以上のように訴訟を行う国が決定され、そして適用されるべき準拠法が定まります。しかし私人間の紛争であっても知的財産権が絡むと、通常とはまた異なった準拠法決定の問題が生じます。次章では、近年話題になった「ドワンゴ対FC2事件」を見ていきましょう。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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