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2026.04.23

国際私法の役割とは:知財から家族関係まで、越境時代に法の適用はどう調整されるのか

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国際私法は、グローバル社会で異なるルールを架橋する

 国の規律する法が異なることによって生じる問題は、商取引や知的財産権の場面だけに限られません。国際的に人や企業が行き交う現代では、結婚や親子関係といった日常的で身近な家族の問題にも波及します。

 いささか単純化した例ですが、フィリピン国籍のAさん(夫)と日本国籍のBさん(妻)がフィリピンで婚姻手続きを行い結婚したケースを考えてみましょう。数年後、生活上の行き違いからBさんは離婚を望むようになります。しかしフィリピンでは、法律上原則として離婚が認められていません。一方で、仮にBさんが日本へ帰国して別の人と再婚したいと考えていたとしても、日本では重婚が禁止されています。フィリピンの離婚禁止制度が、日本人であるBさんの再婚にとってはネックとなるわけです。このように、双方の国の法制度が異なるために生じる問題は、国際私法の枠組みを使って整理する必要があります。

 もともと法制度とは、その国や地域の文化、宗教、歴史など、多様な背景によって形づくられてきたものです。したがって、法は原則として急激には変化しません。特に家族法のように文化的価値観が強く反映された領域では、法改正や極端な判例変更も簡単には行われないのが現実です。しかし、法律がゆっくり変化する一方で、人・モノ・データは国境を自由に行き来します。こうした動きが国ごとに異なる法の体系と接触することで、次々に新たな法的問題が生まれます。

 国際私法とは、こういった諸国の法が異なっているという前提を受け入れたうえで、これらの相違に影響を受ける国際的に活動する人やモノの法的問題をいかに調整するかを探求する法学分野です。

 現在の国際化の進んだ世界においては、いったん他国で生じたであろう私法的な関係であっても、日本で尊重する必要があるし、ある程度は実際にそうしています。国際私法の基本的立場は、「受け入れ可能な限り、外国法を尊重する」というものです。そうでなければ、国境を越えた途端に従来の家族関係が法的に変化または否定されてしまい、人々は安心して国家間を移動できなくなるでしょう。その意味では、前述の契約や結婚の事例のような通常の私法的問題には、知的財産権のような強い属地主義の原則は存在していません。

 とはいえ、外国法を常に受け入れればよいというわけではありません。日本では尊重が難しいと思われる制度(たとえば、幼児婚や一夫多妻婚など)については、一定の場合に日本の公序に反するとして適用を拒否することが認められています(※また、先ほどの結婚の例でも、日本に裁判管轄があることが前提ですが、日本国内において日本法によりBさんを離婚しやすくするルールがあります(法の適用に関する通則法27条ただし書き))。国際私法では、この「受容と拒否の境界」を丁寧に見極める作業が求められます。

 どの法学分野にも価値判断は伴いますが、とりわけ国際私法では他国の制度と正面から向き合う必要があります。異なる価値観や制度をどこまで認めるのか、あるいは自国法の原則をどこまで貫くのか――こうした判断の積み重ねこそが国際私法の醍醐味であり、難しさでもあります。

 国際社会は、不安定であるのがデフォルトです。異なる法体系がぶつかり合い、そこに人々の生活が複雑に絡み合う。その不確実さを少しでも和らげ、異なるルールの間に橋を架けること。私は、それこそが国際私法の重要な役割であり、この分野に携わる意義だと考えています。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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