明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト

フランス大統領選挙の結果、ポピュリズムは退けられたのか?

髙山 裕二 髙山 裕二 明治大学 政治経済学部 准教授

5月7日、フランス大統領選挙の決選投票が行われ、親EUを掲げるマクロン氏が、反EUの極右勢力であるルペン氏を大差で破りました。欧州政治不安が後退したと、世界的に安堵するとともに、アメリカのトランプ政権誕生に見られるような「ポピュリズム」の流れをフランスは押しとどめたといわれます。しかし、本当にそうなのでしょうか。

フランス大統領選挙結果はポピュリズムの退潮ではない

髙山 裕二 私は、今回のフランス大統領選をポピュリズムの観点から興味をもって見ていました。その観点からすると、フランスがグローバリズムによる国家主権の危機にさらされていると「グローバル化の陰で忘れられた人々」に訴え、支持を得てきた極右のポピュリストであるルペン氏に、リベラルとされるマクロン氏が勝利したことは事実ですが、それをもって、ポピュリズムは退潮したというのは早計であると思っています。

 その理由の第1は、すでに指摘されていることですが、今回の大統領選挙は棄権率が非常に高いことです。候補者がマクロン氏とルペン氏に絞られた第2回投票では、25.4%が棄権しています。さらに注目されるのは、ただの棄権ではなく、無効票、白票が11.52%あったことです。これは、戦後のフランスの大統領選挙で最も高い数字です。4人に1人が投票を棄権し、投票した人でも1割以上の人が無効票、白票だったのです。これは、現行の政治体制ないし代議制に対する強い反発の表われといえるでしょう。この強い不満が、ポピュリズムのひとつの温床になっていると考えられます。

 そして第2の理由が、今回の大統領選挙は、第2回投票でマクロン氏66.1%、ルペン氏33.9%と予想を上回る大差をつけたため、マクロン氏が大勝したイメージがありますが、第1回投票を見ると、マクロン氏24.0%、ルペン氏21.3%と、その差は2.7%ほどしかありません。さらに注目されるのが、極左のポピュリストといえるメランション氏が19.5%を獲得していることです。つまり、極右と極左のポピュリストで40.8%を占めることになるのです。これは、2大政党のひとつである共和党のフィヨン氏の獲得した20.0%とマクロン氏の24.0%を合せた44%と、3%ほどの差しかありません。こうした数字を分析していくと、フランスにおけるポピュリズムの台頭は事実であるし、それが、今回の大統領選挙で退潮したとはいえないことがわかります。そもそも、マクロン氏自身、ポピュリズムと無縁とは断言できません。

国際の関連記事

民主主義体制の下、英国王室が存続する理由は?

2023.2.3

民主主義体制の下、英国王室が存続する理由は?

  • 明治大学 法学部 教授
  • 小室 輝久
アナーキズムは、すべての人の、ひとりひとりの中にある

2023.1.18

アナーキズムは、すべての人の、ひとりひとりの中にある

  • 明治大学 法学部 教授
  • 田中 ひかる
差別、格差、貧困の問題と、環境の問題は繋がっている

2022.11.16

差別、格差、貧困の問題と、環境の問題は繋がっている

  • 明治大学 文学部 教授
  • 寺田 良一
ウクライナ侵攻で考える、ロシアの文化とは?

2022.7.20

ウクライナ侵攻で考える、ロシアの文化とは?

  • 明治大学 文学部 専任講師
  • 伊藤 愉

新着記事

2023.03.23

子どもを持って実感した、生き方を選べる大切さ

2023.03.22

仮想実験室で前人未到の発見へ

2023.03.22

AIを使えばだれでも名画を生み出せる?

2023.03.17

AIが広げた世界の法律はどこへいく?

2023.03.16

外国のある裁判で深まった、税や制度への探究心

人気記事ランキング

1

2023.03.22

AIを使えばだれでも名画を生み出せる?

2

2019.07.17

フランス人はなぜデモを続けるのか

3

2020.04.01

歴史を紐解くと見えてくる、台湾の親日の複雑な思い

4

2017.10.04

精神鑑定は犯人救済のために行うのではない

5

2021.11.10

国宝の金印が偽物、ではないことがわかった

連載記事