
2023.03.23
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5月7日、フランス大統領選挙の決選投票が行われ、親EUを掲げるマクロン氏が、反EUの極右勢力であるルペン氏を大差で破りました。欧州政治不安が後退したと、世界的に安堵するとともに、アメリカのトランプ政権誕生に見られるような「ポピュリズム」の流れをフランスは押しとどめたといわれます。しかし、本当にそうなのでしょうか。
私は、今回のフランス大統領選をポピュリズムの観点から興味をもって見ていました。その観点からすると、フランスがグローバリズムによる国家主権の危機にさらされていると「グローバル化の陰で忘れられた人々」に訴え、支持を得てきた極右のポピュリストであるルペン氏に、リベラルとされるマクロン氏が勝利したことは事実ですが、それをもって、ポピュリズムは退潮したというのは早計であると思っています。
その理由の第1は、すでに指摘されていることですが、今回の大統領選挙は棄権率が非常に高いことです。候補者がマクロン氏とルペン氏に絞られた第2回投票では、25.4%が棄権しています。さらに注目されるのは、ただの棄権ではなく、無効票、白票が11.52%あったことです。これは、戦後のフランスの大統領選挙で最も高い数字です。4人に1人が投票を棄権し、投票した人でも1割以上の人が無効票、白票だったのです。これは、現行の政治体制ないし代議制に対する強い反発の表われといえるでしょう。この強い不満が、ポピュリズムのひとつの温床になっていると考えられます。
そして第2の理由が、今回の大統領選挙は、第2回投票でマクロン氏66.1%、ルペン氏33.9%と予想を上回る大差をつけたため、マクロン氏が大勝したイメージがありますが、第1回投票を見ると、マクロン氏24.0%、ルペン氏21.3%と、その差は2.7%ほどしかありません。さらに注目されるのが、極左のポピュリストといえるメランション氏が19.5%を獲得していることです。つまり、極右と極左のポピュリストで40.8%を占めることになるのです。これは、2大政党のひとつである共和党のフィヨン氏の獲得した20.0%とマクロン氏の24.0%を合せた44%と、3%ほどの差しかありません。こうした数字を分析していくと、フランスにおけるポピュリズムの台頭は事実であるし、それが、今回の大統領選挙で退潮したとはいえないことがわかります。そもそも、マクロン氏自身、ポピュリズムと無縁とは断言できません。