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2016.09.28

国際法による説明なしに法の秩序に挑戦する中国に、厳しい南シナ海判決

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当事国が受入れ得るオプションを残す国際裁判

奥脇 直也 では、国際裁判所の役割は何かといえば、通常は、いずれかの国の行為をあからさまに非難することではありません。仮にそのような判決を出しても、国際裁判所には判決を執行するメカニズムがありません。国際裁判所で当事国が互いに法的な議論をすることで、裁判所側は当事国が何を実現することを目指しているのか、何を求めているのかを把握し、その判決がその国によって受け入れうるような行動の余地を残すことも多いのです。そのため国際裁判は、紛争当事国と裁判所による協働のプロセスであるといわれています。もともと執行制度をもっていない国際裁判所にとっては、どのような判決が実現可能なのかを見越し、当事国がともに受入れ得るような余地、オプションを残すことが重要なのです。ときには、当事国間で交渉しなさいと、交渉命令判決を出す場合もあります。

 北海における大陸棚の境界を巡って西ドイツ、デンマーク、オランダが争った北海大陸棚事件では、1969年に国際司法裁判所が、境界画定は衡平な結果を実現するように合意によって行わなければならないとし、当事国に誠実に交渉を行うようにという判決を出しました。その際、いままでの概念やルールでは各国が合意することができなかったため、裁判所側は衡平原則という新たなルールを提示し、それに添って交渉するように指示が出されました。交渉が合意に至るように、裁判所側が交渉の土俵を新たに設定する提案を行ったわけです。すると、いままで膠着していた交渉が合意に向かいました。このように国際裁判所は、実現できない判決を出しても意味がないので、当事国の意思を汲み上げ、その紛争の特殊な事情を取り込みながら、必ずしも他の例には適用できなくても、このケースでは受入れられ得るという余地のある判決を出すものなのです。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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