他国に受入れられることで、新しい概念も国際法になる
国際法は、裁くためのツールというより、まずは国家相互の存立を維持していくためのコミュニケーションのツールなので、遵守するだけでなく、例えば産業や様々な技術の進歩や革新などに応じて生じる国際状況の変化に応じて、随時、新しい概念が取入れられ、その結果、変わっていくという特徴をもっています。例えば、国際的に確定した国家の領域には基本的に他国から自由に出入りすることはできませんが、国際郵便の発達により、万国郵便連合が組織され、連合員を構成する国家の間では国際郵便の国境通過が自由となりました。国家の領域で仕切られていることの不都合を是正する条約、つまり国際法が、郵便技術の発達に応じて新たに創られ、国際郵便業務が国際公共事務として認められるようになったわけです。
また、国連海洋法条約により200海里を排他的経済水域(EEZ)とすることは国際法として認められていますが、これは1945年にアメリカのトルーマン大統領が、自国沿岸の大陸棚の排他的権利を主張し、また自国の沿岸漁業者を他国の遠洋漁業者から守るために排他的管轄権を宣言したことが始まりです。EEZの概念がなかった当時は、トルーマン大統領の一方的な宣言は、伝統的な公海の自由に反する違法行為と見ることもできます。しかし、大陸棚やEEZの概念が諸国によって受入れられ、国家間の同意に基づいた条約(あるいは慣習法)となったことで、この概念は新しい制度、すなわち新しい国際法として確立されました。一度確立された国際法は、外交のコミュニケーションのツールとなります。EEZの場合は、国家間で漁業領域の争いが起きたときには、この概念を土俵として、当事国同士が外交や交渉を行うことができるわけです。
この例のように、どこで違法が合法になるのかは、国際法では非常に微妙です。確立された国際法を遵守しながらも、新しい法を提案する権利をそれぞれの国がもっているからです。しかし、少なくとも一方的に宣言しただけで、それが国際的な新しい概念、新しい国際法になるということでもありません。新しい提案をする場合は、それが自国のエゴの押しつけではないのか、他国が受入れられることであるかを確認するとともに、その新しい概念が理解され共有されることを目指して、法的概念として説明していくことが重要です。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。