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EU離脱はイギリスの新たな成功の歴史への一歩となるか

長峰 章 長峰 章 明治大学 政治経済学部 教授 (2019年3月退任)

日本は冷静にイギリスの外交交渉を検分すべき

長峰 章 1991年のソ連崩壊は、EUに大きな影響をもたらしました。2004年に旧共産圏の国々がEUに一挙に加盟したのです。EUの拡大です。これにより、人手不足にあったドイツなどは人経費の安い東欧に工場を造り、生産効率の向上を図りましたが、問題も起きました。EUの基本原則は、「ヒト、モノ、サービス、カネの移動の自由」です。この原則に則り、旧共産圏の国の人々は職やより豊かな生活を求めて、国を移動するようになりました。実際、イギリスには80~90万人のポーランド移民がいるといいます。これによってイギリスの社会負担は増大しました。もともと欧州統合などの意図はなく、経済的理由でEUに加盟したイギリスにとって、加盟していることが逆に負担を招く状況となったわけです。この状況が国民の反発を招き、とうとう離脱の選択につながりました。

 しかし、離脱によるデメリットは少なくありません。まず、EU離脱によって「シングルパスポート・ルール」(金融機関はEU内のいずれかの国の免許を取得すれば域内のどこでも業務が行える)を失うことになります。いち早く金融自由化を行い“ヨーロッパの金融センター”の地位を築いたロンドンのシティは、その立場を失うことになるでしょう。その対策は重要です。また、日本や英語圏の国にとって、イギリスはEUの窓口でした。まず、英語でコミュニケーションがとれるイギリスに工場を造り、そこで製造した商品をEU市場に売り込むという構造です。日本の企業などもイギリスに大きな投資を行ってきました。しかし、イギリスからEUへの輸出に関税がかかるようになると、そうはいきません。今後、イギリスへの新規投資は減少するでしょう。イギリスの財務相はいち早く法人税を下げると語っていますが、さらなる対策が必要です。

 しかし、離脱をプラスにする可能性もあります。そのためには新しい枠組みを構築することが重要です。まずEUとの離脱交渉を上手に進めることです。参考になるのはカナダがEUと結んでいる総合経済貿易協定(CETA)です。(ヒトの移動の自由はない)CETAのように関税を低くし、取引をしやすくする関係をイギリスも目指すべきでしょう。さらに、EUが交渉をまとめるのに時間がかかっているアメリカとは兄弟国のような関係であるイギリスは、英連邦の国々を含めてアメリカと新たな貿易協定の枠組みを作りやすく、それができればEUに残留している以上に大きなチャンスとなるはずです。

 日本にとってはイギリスの国民投票の結果は驚きであり、悲観的な憶測が広がりました。悪いニュースに過剰反応するのは日本の国民性ですが、いまはイギリスの対応を冷静に注意深く見守るべきです。そのうえで、イギリスとの新たな関係を構築すれば良いのです。離脱交渉は2年かかります。日本としては、したたかなイギリス外交の推移を、冷静にしっかり検分するべきでしょう。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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