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EU離脱はイギリスの新たな成功の歴史への一歩となるか

長峰 章 長峰 章 明治大学 名誉教授(元政治経済学部教授)(2019年3月退任)

イギリスのEU加盟は経済的理由

 第2次世界大戦後、実際にヨーロッパを統合しようという気運が高まっていきます。まず、1952年に、フランス、西ドイツ、イタリア、ベルギー、オランダ、ルクセンブルクの6ヵ国によって欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC)が設立されます。歴史上、資源の獲得争いから戦争になることが多かったため、石炭と鉄鋼を共同管理しようという組織です。これはヨーロッパの最初の組織であり、ヨーロッパ統合への出発点といって良いでしょう。1958年には、欧州経済共同体(EEC)ができ、1967年に、ECSCとEEC、そして欧州原子力共同体(EURATOM)が統合し、EU(欧州連合)の前身となる欧州共同体(EC)が誕生します。このとき、イギリスはECに加盟しませんでした。

 ヨーロッパの歴史を見ればわかるとおり、ヨーロッパの統合には、経済的側面と、政治や安全保障の側面があります。統合を推進するフランスにとっては、隣国のドイツを封じ込め、二度と暴れさせないという思惑が強くありました。イギリスには、このような意図はフランスほど強くありません。むしろ、20世紀になりイギリスに替わって世界の覇権を握るようになったアメリカや、旧植民地を含む英連邦諸国とのつながりの方を重視していました。ところが1950年代以降、労働党の政策などにより産業国有化が進められると、国際市場での競争力を失い、イギリスの産業は衰退し、経済は停滞していったのです。「英国病」といわれる時代です。そこで、身近なヨーロッパの市場を頼りとして、1973年にイギリスはECに加盟します。この選択は成功したといって良いでしょう。1980年代の「サッチャー革命」とあいまって、イギリスの経済は活性化へと向かうのです。つまり、イギリスがECに加盟したのはまったく経済的理由で、フランスなどのように国家連合を創ろうという思いはありませんでした。むしろ、世界の覇権を握った大英帝国の記憶をもつイギリスにとっては、国家主権は絶対に譲れないという立場なのです。このイギリスの姿勢は、1993年にECを基盤にしたEU(欧州連合)の発足にあたり、離脱することはなかったものの、欧州単一通貨ユーロの導入には参加しなかったことに顕著に現われています。通貨を発行するのは重要な国家主権であり、イギリスがそれを手放すことはないのです。

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