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NAFTAの経験から何を学ぶのか、TPPへの示唆

明治大学 商学部 准教授  所 康弘

苦悩するNAFTA下のメキシコ農業・金融部門

 他方、農業では懸念されていたことが現実に起きました。メキシコはごく一部の大規模な地主や資本家が大農場を展開していますが、圧倒的に人数が多いのは零細の小規模農家です。NAFTAによってアメリカから安いトウモロコシやその他穀物(小麦やコメなど)が大量に輸入された結果(国内のトウモロコシ生産それ自体は増えましたが、それは大農場による飼料用など加工目的のトウモロコシがメインです)、小規模農家のトウモロコシは市場に出回ることはなくなり、多くの農家がつぶれ、大量の失業者が生まれました。こうした事態は日本にとって決して他人事ではないでしょう。ちなみに、この失業者たちが移民としてアメリカに渡り、NAFTA発効以降、移民数は激増しています。いま大統領候補になっているトランプ氏が、アメリカ人の雇用がメキシコ人移民に奪われていると演説中に言及したことは、記憶にも新しいと思います。でもメキシコ側から見ると、移民送金は同国の経常収支赤字幅の縮小に大きな役割を果たし、そして貧しいメキシコ人の家計を助ける重要なツールなのです。

 さらに大きな影響が出た分野は、金融分野です。金融や保険分野はアメリカの比較優位産業ですが、NAFTAによって金融自由化と金融分野の資本移動の自由化がなされると、例えば銀行部門においてはアメリカ系の銀行がM&Aを繰り返し、外資化と寡占化がドラスティックに進みました。先進国の金融企業には資金力も金融技術のノウハウもあり、途上国金融システムの規制緩和・自由化は生産部門への低調な融資問題を解決するという古典的な議論がありますが、メキシコ経済や生産部門が本当に活性化されたのかは、大きな疑問が残ります。結論からいえば、2000年代を通じて新たな設備投資などへの融資は極めて低調でした。

 むしろ金融仲介機能は一変し、外資系銀行は証券化商品やデリバティブ商品の販売など投機的手段の事業を増やし、また高利益率を生み出す政府債券の購入、担保付き住宅ローン、消費者ローンに資源を集中させてきたのです。くわえて、その活動はメキシコに進出してきた外国企業や輸出企業(大企業)に対する業務がメインになり、それ以外の多くの国内労働者を吸収している小規模企業や農家にはあまり融資がなされなくなりました。同国の銀行部門は収益性の観点から見れば向上しましたが、反面、いわゆる“敗者”が多く生まれることになったのも事実なのです。ちなみにTPPにおいても金融・保険などのサービス貿易が自由化の対象にされています。

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