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都市と地方をかきまぜる 新しい日本のライフスタイルを切り拓く「関係人口」とは?

Meiji.net編集部 Meiji.net編集部 

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大都市へ人やモノが集中する現代の日本。しかし今、感染症や災害リスクの増大など、巨大都市を脅かす問題が表面化してきています。また地方では、何十年も前から危機が叫ばれており、過疎化が進むことで、住民の高齢化や雇用の減少、交通の利便性低下など、暮らしに大きな影響を与えています。
しばしば対立構造で語られる「都会」と「田舎」ですが、それぞれの問題は解決に向かっていけるのでしょうか?この糸口となるのが、都市に暮らしながらも地方に継続して関わる「関係人口」という考え方。そこで今回、実業家で「関係人口」の言葉を生み出した(株)雨風太陽・高橋博之代表と、農村政策論の第一人者である明治大学農学部・小田切徳美教授の特別対談を開催。
食を通じて数々の事業を手掛けてきた高橋さんが抱く「都市と地方をかきまぜる」ことへの思いとは。そして、小田切教授が提唱する「にぎやかな過疎」とは?新しい元気な日本を創るために、それぞれの立場で歩み続ける2人が、熱い思いを語り合いました。


高橋 博之
株式会社 雨風太陽 代表取締役。岩手県花巻市出身。都市と地方をかきまぜ、日本中あらゆる場の可能性を花開かせることを目指す実業家。

小田切 徳美
明治大学 農学部 教授。 農村政策論、地域ガバナンス論が専門。


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対談は、住宅地の中に広々とした畑が広がる、東京郊外の里山近くで行われた(左から小田切教授、高橋氏)

「食の現場」を段ボールに詰め込んだ『食べる通信』

小田切:最初にお聞きしたいのは、2013年に創刊された食べもの付き情報誌『東北食べる通信』についてです。生産者を特集した情報誌と、そこで収穫した食べものがセットで届くという史上初のアイデアに当時私も驚きました。これはどういった発想から生まれたのですか?

高橋:きっかけは東日本大震災です。縁もゆかりもないのにたくさんの人が被災地に来て、復興の手伝いをしてくれました。「生まれて初めて漁師に会った」という方が多かったのを覚えています。食事やお酒を交わしながら話が進んでいくうちに、漁師が自分たちと変わらない人間だと実感していったのでしょう。しかも、自分たちの何分の1の収入で頑張っていると言う。

小田切:消費者が生産者の実態を知らない、知りたくないというのは、昔からのことですが、そこに変化が生まれているのですね。

高橋:そういう人たちが漁師と「関わり」を持ったことで「自分が応援しないと!」という「共感」が確実に生まれました。そして都会に帰って、生産者と生産物の価値を口コミで広げてくれたんです。
ただ、震災後2年ほどでボランティアも来なくなりました。要は風化しちゃったんです。来てくれないんだったら、生産の現場を段ボールの中に詰め込んで、都会のマンションに送ってあげようと。

小田切:「現場を段ボールの中に詰め込んで」という言葉はリアルですね。段ボールの中には農・海産物だけではなく、それにまつわるストーリーも詰め込むわけですよね。

高橋:そうです。そちらのほうがメインだと思っています。

小田切:それによって「共感」が生まれる。私たちも研究レベルで、「共感=シンパシー」って言葉はとても重要視されています。「関わり=関係性」もそうですし、そこから出てくる可能性も大きい。私たちが経済学とか社会学で議論している言葉そのままが、高橋さんから出てきたのでとても驚きました。

※ 『食べる通信』 宅配便で届く、世界初の「食べもの付き情報誌」。冊子では同梱された農・海産物の生産者の人柄や物語を紹介。2013年7月に『東北食べる通信』を創刊して以降、日本全国・海外へと広がり、23通信が発行されている(2022年12月現在)

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東日本大震災の復興をきっかけに生産者と消費者のコミュニケーションの効果を考えるようになったと高橋さん

『ポケマル』が生み出したコミュニケーションは500万回以上

小田切:高橋さんは『食べる通信』の次に、産直ECサイト『ポケットマルシェ(以降 ポケマル)』を立ち上げました。雑誌を続けながら、ネットも始めた理由は何でしょう。

高橋:『食べる通信』は1500部限定で、それ以上は生産者の手が回らない。しかも年間12回しか発行しないので、広がりに限界がありました。

小田切:その限界を突破するために『ポケマル』を発想したのですね。

高橋:『食べる通信』で得た知見をスマホに実装しただけです。これを広めるために全国各地の生産者を回ったのですが、「いろんなネット販売をやったが、最初はうまいことを言うが、結局話がちがうことばかり」と言われてしまいました。そこで助けとなったのが『食べる通信』。思ったよりも生産者に認知されていて、「実は『食べる通信』をやってます」と話すと信頼してもらえました。

小田切:巨大ECサイトのような一方的な評価ばかりじゃなくて、『食べる通信』のコミュニケーションを重視する姿勢が、生産者にも伝わっていたのですね。

高橋:はい。農家や漁師がどういう人たちかを消費者に知ってほしかった。その思いだけです。

小田切:生産者、つまり農業者や漁業者の暮らしや人間性さえも見てもらい、そこから親近感が生み出されたのですね。

高橋:高齢者もいるし若い人もいる。作っているモノも皆違う。親きょうだいがいて、夢も悩みもあって「あなたと変わらない人間だよ」って。そこが見えると「共感」が生まれてくる。例えば趣味の話になって「え、野球好きなの?どこのファン?」って“やりとり”が始まると、もっと身近に感じます。すると「この人からずっと買い続けたい」と思う。行きつけの食堂みたいなものですね。

小田切:プロの農家は逆に「作った人より品質で評価してほしい」としばしば言いますが。

高橋:よく言われます。しかしある程度のレベルになると、素人の舌では分からないほどみんな美味しいんですよね。では何で差別化するのか。それは、「この人から買いたい」っていう生産者の人間性です。

小田切:そうして生まれたのが、『ポケマル』で、生産者や購入者が相互に発信できるのでコミュニケーションが生まれる仕組みですよね。去年、ネット上のその“やりとり”が500万回を突破したと聞きました。

高橋:私自身もびっくりしました。それだけ生産者のことを知っていただけて、嬉しいなって思います。

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『ポケマル』を運営する高橋さんの発想とノウハウを聞き、自身の研究成果を交えて答える小田切教授

「関係人口」は都市から地方を元気にしてくれる

小田切:生産者への「共感」が広がって「この生産物→この人→この地域」というように「関わり」が広がると、その先はどうなるとお考えですか?

高橋:生産者と仲良くなって自分の興味や関心が向くと、生産者自身の課題や、その地域の問題も分かってきます。そうすると人は、おせっかいをやきたくなるんです。

小田切:そんな人たちのことを、高橋さんは「関係人口」という言葉を創造し表現してくれた。「関係人口」についての私の定義は「移住や観光でもなく、単なる帰省でもない、日常生活圏や通勤圏以外の特定の地域と継続的かつ多様な形で関わり、地域の課題の解決に資する人など」としています。

高橋:「関係人口」の関わり方って色々で、初めはオンラインで相談にのるとか、行って話を聞いてみるとか。その中で当事者意識が芽生えてくると「副業」に、さらには都市と地方の「二拠点生活」になる。「関係人口」は人手不足の生産者や地域社会の助けになっています。

小田切:『ポケマル』での“やりとり”の先には「関係人口」の創出を見据えているのですね?

高橋:デジタルの力をきっかけに、色んな人たちが農村や漁村から食材を買うだけじゃなくて、食べる人たちがもっと地方の担い手になってほしいんです。それは私の願望じゃなくて、食べている消費者のみなさんが求めているんですよ。

小田切:私は「関係人口」が生まれる背景というのを3つ考えています。1つ目はデジタル・SNSの普及、2つ目は関わり価値、そして3つ目は若者の価値観の多様性です。中でも、高橋さんが見事に表現された、「関わり」を持つこと自体に願望があり、価値があるという「関わり価値」の考え方は非常に重要なポイントです。

高橋:そこから小田切先生が言う「にぎやかな過疎」が生まれるというわけですね。それは私の願望でもある「都市と地方をかきまぜる」ことが可能になります。

小田切:「関わり価値」があることで、「関係人口」が増える。そして、地域に多様な人々が入っていって、そこに企業も大学もNPOも関わっていく。色んな主体がワイワイガヤガヤして「都市と地方をかきまぜる」。こうして「にぎやかな過疎」が生まれる。私たちがそれぞれ主張する「関係人口」と「にぎやかな過疎」はこのようにして繋がります。

高橋:阪神・淡路大震災の時、ボランティアの人たちが、役所に頼るだけじゃなくて、自分たちも教育や福祉などに参加しようとしました。この人たちが「関係人口」になって、地域のいろんな課題に関わり始めたんです。何気ない話の中で「この酒蔵300年続いてるんですか!」と褒めたことをきっかけに、現地の人がその価値を再認識したなんて例もあります。

小田切:私はそれを「交流の鏡効果」と呼んでいます。外から来た交流者自身が地域の宝を映し出す「鏡」のような存在になっているということです。そこで生まれるのは当事者意識です。「まだまだこの地域は可能性があるのではないか」っていう意識が共有されていくことが重要で、そのために必要なのは、補助金でも土木事業でもなく「関係人口」の人たちなんですね。

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「関係人口」の重要な役割を、お互いの立場や経験から語り合うお二人

「関係人口」は歴史的潮流にしなければならない

小田切:私はよく「都市農村共生社会」という言葉を使います。最終的には都市、農村という言葉がなくなり、「関係人口」さえなくなる。ライフステージによる住み分け、働き方を変えていくこともある。そういう意味でビジョンやプロセスは明確ですが、いまだに一極集中ですよね。

高橋:今のところ、「関係人口」とか「地方移住」は、相当意識の高い人や、ベンチャーをやってる人などしか関心がありません。これをマスボリュームにするには、制度を作り、大企業を変える必要があります。

小田切:例えば徳島県の「デュアルスクール」は、転校しなくても現地の学校に子どもが行くことができるんです。住民票をわざわざ移さなくても、保護者が現地のサテライトオフィスに2週間行くなら、そこの学校に入れちゃう。こんな制度が広まれば流動性が高まるでしょう。

高橋:今、都会で生まれ過ごす子どもたちが、ゲームと動画共有サービスと塾で育っています。この世界はあまたの生き物たちが生かし、生かされている命の網の目で、みんなその中にいるんです。なのに、それを感じる機会がないんです。

小田切:それで「親子地方留学」の事業を始めたと伺いました。

高橋:今「ふるさと難民」がたくさんいるんです。「ふるさと」というのは、親戚がいる田舎ってことだけじゃない。生き物としてのふるさとは土と海なので、時々触れなければいけない。子どもたちと海や山に行ってよくわかったのは、彼らは「自然の中で遊ぶことが本当に楽しい」ということ。

小田切:子どもだけじゃなくて、大人も自然に触れる機会は少ないですよね。ましてやそこで暮らした経験は少ないと思います。

高橋:農業や自然の素晴らしさって、言葉で説明して、頭で理解する話じゃなくて、その中で身体を動かし、感じ、理解する世界なんです。だから、現地に行ってもらいたいんですよ。ひとりでも多くの人に、まずは「自分が買っている食べ物を誰が作っているか」を知るところから、階段を昇ってほしいです。

小田切:今日、私が改めて気がついたことは、「関わり価値」や「関係人口」を、ひとつの歴史として位置づけなければいけないということ。単なる流行ではなくて、歴史的な潮流なんだと。特に日本においては、重要ですね。高橋さんの主張はそれを意識されていますね。

高橋:今、日本人の暮らしや精神がすごく貧しくなり始めています。単身世帯が増え、人工的な食べ物で栄養を“チャージ”しています。生活に必要なものはお金で買い、自分の仕事に生きがいを感じる日本人はたった5%という統計もある。あとの大多数はイヤイヤ仕事をしているんです。

小田切:そういう人こそ農村に行ってほしいですよね。 「都市農村共生社会」になるために、都市と地方が理解し合わなければいけないと思いますが、今までの体験で何を感じていますか。

高橋:東日本大震災の被災地は、何回も津波にやられているんです。都会の人は合理的ですから「なぜ引っ越さないの?」って言うんですが、これは代替不可能なんですよ。その土地の自然、歴史、風土に紐づいて、精神的・経済的に自立するっていう生き方を連綿とつないできた。そこを理解するには「共に生きる」ことをしないとわからない。

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農村政策論が専門の小田切教授。国会で都市と地方について意見を述べることも

二拠点生活を推進する「ふるさと納税住民票」構想

高橋:都市住民にとって、地方は必要なんですよ。それは自然の中で、自分たちが心身ともにリフレッシュして、元気になって都会に帰っていけるからです。だから観光もこれからは、受益と負担の関係に踏み込むフェーズだと思っています。

小田切:私は国の制度設計に参加していたのですが、当初の「ふるさと納税」は、地域のプロジェクトを応援するために寄付するタイプが想定されていて、今で言えばクラウドファンディング型でした。提案した時に私が参考にしたのは長野県泰阜村の「車いす空を飛ぶ」という障がい者の旅行支援事業でした。全国からこのような特徴的なプロジェクトに寄付を集め、返礼品ではなく礼状や事業報告書をお返しする。これがモデルだったんです。

高橋:私の「ふるさと納税」のゴールは、都市住民が住民税を分散納税することです。2050年前後に日本の人口が1億人を切って2000万人分がいなくなったとき、2千万人が2つ住所をもっていれば実質は変わらない。ましてや2000万が地域に関わっていれば、総人口が減ってもむしろ社会の活力が増すこともある。

小田切:それをもっと早く言ってほしかったな(笑)。私も同じことを考えていて「ふるさと特別住民票構想」と呼んでいます。まさに住民票を、現在のもの以外に「ふるさと特別住民票」も作れるようにして、そこに直接、地域貢献するだけではなく、住民税の例えば5〜10%を回せるという制度の構想です。まったく同じですね。

高橋:やりましょう。自民党の中に「二地域居住社会実装タスクフォース」というものがあって、座長が世田谷(衆議院議員東京都第六選挙区)の越智隆雄さんなんです。選挙で「もう1か所、地方に拠点を持つことが生活の質を高めるし、地震のリスクヘッジになる」と、都会の代議士が訴えたことが面白い。

小田切:そうですね。私の構想ではお金が流れるだけではなくて、ちゃんと向こうに行って汗を流してほしい、ということをプラスしています。

高橋:地域の人から見ると、「関係人口」は「どうせ東京に帰るやつだろ」ってどこかで思ってる。だけどこの制度ができれば、政府のお墨付きになるので、田舎の人も受け入れると思うんですよ。

小田切:制度でいえば、岐阜県の飛騨市には、「飛騨を助ける」という意味の「ヒダスケ」という仕組みがあって、地域の課題、例えば「大豆の選別をする」とか「雪囲いづくりを手伝う」というプログラムに参加すると、アプリ上のポイントが貯まり、それが市内で地域通貨として使えます。現在の登録者は8000人を超えています。

高橋: 今は都市にしか拠点がないと選択肢が狭い。都市と地方に2つの拠点があると、子どもが何歳までは地方で暮そうだとか、週末は地方で暮らそうだとか、生活設計に選択肢の幅が広がります。

小田切:企業もが動いて、テレワークがさらに一般化し、そこに「ふるさと特別住民票」みたいなものができると、おそらく教育制度も変わる。そういう意味では、企業や制度が変われば、日本社会もいよいよ大きく変化することになりますね。

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『都市と地方をかきまぜる「食べる通信」の奇跡』(2016年、光文社)をはじめ、高橋さんの著書は多数 

歯止めのない「多極集住」論

小田切:今、興味深い議論があって「一極集中は何とかしなくちゃいけない。地震のことも、エネルギーのこともある。じゃあ分散した時にどうするか」ということから「多極集住」論が出ています。

高橋:「多極集住」とは具体的にどういった施策なんでしょうか。

小田切:一極集中の次の社会をどうするかということで、例えば「東北地方はもっと仙台と盛岡の中心部に集住しなくてはいけない」といったことです。私はこれには違和感があり、農山村も含めた「低密度居住」がよいと思っています。デジタル技術があって、都市からの共感もあるので、低密度で住むことが維持できる時代ですからね。

高橋:「多極集住」は、つまり地方がなくなるということですよね。

小田切:そうです。この議論の最大の欠点は歯止めがない点。つまり「国家財政が厳しいから集まって住め、効率性が悪いから集まって住め」と。そうなったら結局全員が東京周辺に住むほうがいい。さらにいえば、こんな災害が多い国に住む必要性はないということにもなりかねない。そこは歯止めがない。

高橋:だったらもっと合理的な方法があります。インドのデリーとか上海などはさらにメガシティだから、そちらに行ったほうがさらに合理的ですね。

小田切:際限がないってことに気づかずに進んでしまうのか、それとも新しい技術で「低密度居住」が実現できるようになると考えるか。政策論的に意外と厳しいところにあります。

高橋:合理的に考えたら、人間は最終的に感情を大事にします。じいちゃんが暮らしてきた場所、じいちゃんだけじゃなくて先祖と一緒に景色を作ってきた中に、自分も繋がってるっていうのが、すごく大事なことなんです。

小田切:そうですね。いま、「都市集住」か「低密度居住」かの綱引きが、政策論として始まっているんですね、ぜひ応援してください。

高橋:もちろんですよ!私は社会の課題を解決するのもイノベーションを起こすのも、テクノロジーでなくて人だと思っています。すべては使う人次第なので、私たちの心や哲学が伴ってないと、テクノロジーだけ肥大化していって、こっちは振り回されると思うんですよね。

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農山村には多様な人々が混ざり合う「にぎやかな過疎」が生まれているという小田切教授の意見に高橋さんは同意する

日本の未来が託される「若者」には農村体験を

高橋:常識的に考えて、すべての集落がずっと残ることはありません。だから「もう村を閉じる」っていうとき、その方法が問題だと思うんです。無理に「街に出てこい」じゃなく、最後の一人まで「そこで生きたい」っていう人がいるなら、それを認めてあげたいし、看取ることが大事だと思うんです。

小田切:それは「ムラおさめ」っていう議論で、集落をたたむプロセスが必要ではないかという議論です。いろいろな考え方ができますが、少なくともそれを政策や外部の力が促進する必要はないと思います。

高橋:だったら若者がそこに1年間暮らしたり、若い人たちが村に入り込んでいって、お年寄りの話をいっぱい聞く。それをちゃんと心に刻めば、50年後の日本は暗くないと思うんです。そうした若者が、経験を生かして暮らしていくはずです。

小田切:実は、私たちの調べでは計算上、1つの集落には積極的に地域課題に汗を流す「関係人口」が4人くらいいるんです。しかし、今はそれが一部の地域に集中している。ただ、それが分散して、もし4人が平均して多くの集落に入れば、どの地域にもまだまだ可能性がある。だから若者にどんどん「関係人口」化してほしい。

高橋:私は大学生に「地方創生」の講演をしたあと、「なぜ地方は必要なんですか」って言われたことがあります。「日本は人口減少社会だから、みんな都会に集まって暮らすべきだ」って。東京で生まれ育っているからその価値観しかない。

小田切:その大学生は、地方を知る機会がないだけなのでは。都市出身の学生でも、農村にフィールドワークへ連れていくとコロリと変わります。本当の手のひら返し。「こんなにも農村には可能性があったのか」と。

高橋:「楽しいからやるんだ」っていう姿勢で、頭じゃなく身体が欲しているので、農業体験は広がると思います。

小田切:しかも、彼らは、地方に入っても意外と上から目線ではないんです。昔は、「SNSでこうすべきだ」「ブログは?Twitterもやってないの」なんて、都市的な発想で、一方的に提案するケースもありました。しかし、最近では、「私たちにできるのはこんなことですが、皆さんの課題と繋がりますか?」って問いかけます。これを「横から目線」って呼んでいるんです。

高橋:同感です。私は40代になって「自分はどう生きるべきか」って考えたけど、今の若い子たちは20代で悩んでいます。早熟ですよね。それは日本が豊かになった証拠でしょう。それを決める時に、地方という世界にも関わってくれれば、生き方に影響を与えると思うんですよ。

小田切:私たちが接する若者は、上の世代が思っているよりも色々考えていますよ。「関係人口」も「にぎやかな過疎」も、若い人に託さなければ日本の未来はないですからね。

高橋:その通りです。それにしても、やっぱり畑は気持ちがいいですね。今日はありがとうございました。

小田切:さらに「都市と地方をかきまぜる」ご活躍に期待しています。お忙しいところ、ありがとうございました。

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取材場所となった「浜中園」のパッションフルーツ。東京・八王子市で南国の果物が作られ名物になっている

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写真中央が『ポケマル』に出店している浜中さん。撮影は浜中さんのご協力を得て、所有する畑をお借りした

対談を終えて

高橋:とにかく時間が足りない。いつものことですが、小田切先生と話をすると共感しかない。目指しているところは同じなので、これからも協力を惜しまないつもりです。

小田切:高橋さんとは言葉は違っても、同じことを言っているので、どちらか一人でよかったのでは(笑)。さらに繋がって都市と地方の両方をよくしていきましょう。


Profile

高橋 博之
1974年、岩手県花巻市生まれ。青山学院大卒。
岩手県議会議員を2期務め、2011年9月巨大防潮堤建設へ異を唱えて岩手県知事選に出馬するも次点で落選し、政界引退。
2013年、NPO法人東北開墾を立ち上げ、世界初の食べもの付き情報誌『東北食べる通信』を創刊し、編集長に就任。翌年、グッドデザイン大賞候補に選出され、決選投票の結果2位に(グッドデザイン金賞受賞)。
2014年、一般社団法人「日本食べる通信リーグ」を創設し、同モデルを日本全国、台湾の50地域へ展開。第1回日本サービス大賞地方創生大臣賞受賞。
2016年、生産者と消費者を直接つなぐスマホアプリ「ポケットマルシェ」を開始。翌年、日本最高峰ピッチコンテスト「新経済サミット」で優勝。
2018年、47都道府県を車座行脚する「平成の百姓一揆」を敢行。「関係人口」提唱者として、都市と地方が共ともに生きる社会を目指す。
2019年2月14日(木)と2022年11月10日(木)に「カンブリア宮殿」(テレビ東京系列)に2度出演。
著書に、『だから、ぼくは農家をスターにする』(CCCメディアハウス)、『都市と地方をかきまぜる』(光文社新書)が、共著に『人口減少社会の未来学』 (内田樹編、文藝春秋)、『共感資本社会を生きる』(ダイヤモンド社)がある。

・株式会社雨風太陽
・ポケットマルシェ
・食べる通信

小田切 徳美
東京大学大学院博士課程単位取得退学。博士(農学)。高崎経済大学経済学部助教授、東京大学農学部助教授を経て、2006年より明治大学農学部教授。過疎問題懇談会座長(総務省)、国土審議会委員(国土交通省)、農業問題研究学会代表幹事等を兼任。専門は農村政策論、地域ガバナンス論。 著書に『農山村は消滅しない』(岩波書店)、『農村政策の変貌』(農文協)など多数。

・選択肢は「都会」か「田舎」だけじゃない!(小田切先生の動画記事)

【撮影協力】
・浜中園(東京都八王子市)
・浜中俊夫さん(浜中園)のポケットマルシェ生産者ページ


※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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