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スマート社会の実現を私たちも考えよう

菊池 浩明 菊池 浩明 明治大学 総合数理学部 教授

第3回 ターゲット広告は必要?不必要?

>>英語版はこちら(English)

インターネットを利用していると、同じページを開いても、人によって、表示される広告が違うことに気がつくのではないでしょうか。それは、閲覧者の嗜好に合わせて表示される広告が変わるからです。では、広告を配信する側は、どうやって、私たちの嗜好を把握しているのでしょう。

私たちの知らないところで利用されている閲覧履歴

 人によって、よく見るウェブサイトは違います。車のサイトをよく見る人もいれば、ファッションのサイトをよく見る人もいます。すると、ニュースなどのサイトを見ていても、そこに表示される広告が車関連ばかりとか、ファッション関連ばかりになったりします。それをターゲット広告と言います。

 どうして、そのようなターゲット広告が可能なのか。実は、私たちがインターネットでウェブサイトを見た履歴は、利用しているブラウザ(Microsoft Edge、Google Chromeなど)によって保存されています。更にサーバ側がクッキー(cookie)と言われる情報をブラウザに記憶させたりしています。

 広告配信事業者は、このクッキーを利用して、ユーザーごとの嗜好を分析し、嗜好に適した広告を配信しているのです。

 すると、ユーザーは、その広告を通じて、自分の興味に合った企業のサイトを知り、訪れることができますし、広告主である企業は、自社の顧客になってくれそうな人たちに効率的にアピールすることができるわけです。

 また、サービス事業者側であるプラットフォーマーはクッキーから絞った特定の顧客層向けに広告配信を売ることで収益を上げ、それを買った広告配信事業者は効果的な広告を配信することで、広告主からたくさんの広告依頼を受けることができます。

 さらに、こうした仕組みがあることによって、私たちユーザーは、ネット環境において、無料や非常に安価で様々なサービスを享受できるようになっています。つまり、みんながウィン・ウィンの関係になるわけです。

 実際、私たち研究チームは広告主の側に立ち、広告を配信する研究を行っています。すると、どんな人に広告を配信したいのか、年齢や閲覧場所、趣味趣向など、きめ細かい条件を設定することができることがわかりました。

 これは、インターネットの発達や、そこで個人情報を容易に集積することができ、それをきめ細かく分析する技術が発達したことで、初めて実現した仕組みと言えます。

 では、みんながウィン・ウィンになれるこの仕組みは素晴らしく、私たちユーザーも黙って享受し続けていれば良いのか、というと、決してそう単純ではありません。

 例えば、いくら自分の嗜好に合った広告だといっても、同じようなものばかりを毎回見せないでほしいという人もいます。また、自分の閲覧履歴を利用されることに嫌悪感や不安感をもつ人もいます。

 実際、日本で、大学生の就活を支援する企業が、学生の閲覧履歴を分析して内定辞退率なるものを算出し、そのデータを学生たちに無断で企業に売るという事例が起きました。

 これは、私たちユーザーが、個人情報をとられることに対して漠然と感じていた不安が顕在化した象徴的な例のひとつと言えます。

 つまり、個人情報を分析する技術は、私たちにとって思いもよらないほどに発達しており、私たちの知らないところで私たちは勝手に分析され、そのデータは企業の間で売り買いされているわけです。

 実は、この人にはこの広告が適している、というターゲット広告の基になる分析も、こうした技術の一環と言えるのです。

 そこで、人権やプライバシー保護に敏感なEUなどは、GAFAと言われる巨大プラットフォーマーを念頭に、その活動を規制する動きを強めています。

スマート社会を実現していくために

 では、規制強化を歓迎するべきか、といえば、それもまた複雑です。先に述べたように、この仕組みがあることによって、私たちユーザーは無料でサービスを享受できたりしているのです。

 規制が進めば、サービスが有料化されたり、画面に、自分にはまったく興味のない、関係のない広告ばかりが表示されることになるかもしれません。

 では、どうすることが良いのか。私は、私たちユーザーが主体であることを意識し、私たち自身のために主張することではないかと思います。

 すなわち、私たちユーザーは、プラットフォーマーや、そこからデータを買う企業などに踊らされるのではなく、私たち自身が、私たち自身の利便性のために、プラットフォーマーなどを利用するのが理想であるはずです。

 そのためには、ユーザーの意見が反映される仕組みをつくっていくことが必要になります。

 例えば、現在でも、ウェブ上でサービスを提供する企業は、個人情報の取り方や利活用の方法等について明記したプライバシー・ポリシを表示しています。しかし、それは小さな文字で細々と書かれ、しかも法曹界で使われるような文言のため、一般の生活者にはわかりにくく、精読する人はほとんどいないのが実情です。

 これを、誰もが読んで理解できる表示とし、各人がその内容に応じて納得できるサービスを選択できるような仕組みにすれば、ユーザーが主体のシステムが構築されていくはずです。

 いま、ICTやデジタル技術を活用したスマート社会の実現が目指されています。しかし、それは、立法や行政、法曹機関、技術者などの専門家だけで実現していくべきものではないはずです。

 内閣府が定義する「ソサエティ5.0」でも謳われているように、人間中心の社会の実現が目標であれば、私たち生活者が、そのための議論に加わり、私たちのための仕組みを私たち自身も考え、意見を発信していくことが重要なカギになると思います。

 そのためには、今回の連載で述べてきた「顔認識カメラ」や「ターゲット広告」は、スマート社会を実現するための個人情報の利活用を考えることであり、逆に、そうしたシステムを悪用しようとする「ランサムウェア」などのリスクがあることを知り、そうした脅威にいかに対処していくかを考え、実行していくことも、私たち自身の問題であることを認識することが大切です。

 専門家でなければわからない、ではなく、まず、関心をもち、私たちも一緒に考えていくことが、私たち生活者が置き去りにされるようなことのない仕組みを構築していくために、一番必要なことなのです。


>>英語版はこちら(English)

第1回 顔認識カメラが進む社会は便利になる?不安になる?(1ページ)
第2回 重要なのは、インシデントがあっても事業の継続を保てる仕組み(2ページ)
第3回 ターゲット広告は必要?不必要?(3ページ)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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