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企業と監査人が協力して作るKAM

 財務諸表は、企業の活動を勘定科目と数値を用いてまとめたものです。1年間の活動結果が集約されています。しかし、現代の財務諸表には、将来を見越した要素が相当に盛り込まれているといわれます。わかりやすい例では、将来、回収できなくなる金額を見積もった上で引当金として計上する貸倒引当金があります。また、よく注目される例としては、のれんという無形の資産の会計処理があります。企業の買収や合併を行った際、その企業の純資産の評価額と買い取り価格との差額から生じます。そして、そこから収益が上がっていないと経営者が判断すれば、価値を下げる処理をします。これを減損といいます。これらの金額は将来の予測に基づいて見積もられます。つまり、用いる予測値や経営者の判断によって変動する可能性が高い数値です。監査人が特に着目する事項とはこうした領域なのです。他には売上の計上や税金に関する問題などがあります。

 KAMによって、投資家や金融関係者などは、企業の財務諸表の着目ポイントはどこで、監査人がその数値を適正とした検討プロセスも的確に知ることができるため、有用な情報であると考えられます。また、監査人の活動が可視化されることによって監査業務の理解と信頼が増すことに繋がり、上で述べた不信感が払拭されることが期待できます。

 ところで、財務諸表の監査は、犯罪の捜査や脱税の調査とは異なり、監査される企業との協力関係の上で成り立つものです。したがって、KAMを決めるに当たっても、監査人は監査の過程で注目した事項を企業側に伝え、監査役や経営者とコミュニケーションをとり、ディスカッションを繰り返しながら決めて行きます。その中で、企業側は、監査人の注目点を知ることによって、対応をとることもあるでしょう。つまり、KAMが記載される前に、積極的に情報を財務諸表に注記事項として記載するという経営者の動機です。開示が進むことにより、内容が豊富な財務諸表となることが期待できます。監査役から経営者に開示を促すこともあるでしょう。KAMを通して、監査役の役割にも注目が集まっています。もちろん、KAMは、企業の秘密を暴くといったことではありません。むしろ、開示されることによって企業の活動が理解されやすくなる情報も多いのです。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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