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ブランド価値の向上が日本企業の課題

明治大学 経営学部 教授 原田 将

ブランド・コミットメントの向上が日本企業の課題

 David Aakerによって提示されたブランド・エクイティの要素として、まず、「ブランド認知」があります。そのブランドが消費者に知られているかどうか、ということです。そもそも、消費者に知られていなければブランドの効果を発揮できません。

 次に、「知覚品質」です。これは、消費者がそのブランドに感じる品質の優位性を指します。ここで言う知覚品質とは、スペックなどで表される客観品質とは違います。消費者がその製品を使ったときに感じる品質です。

 3つ目が、「ブランド連想」です。消費者がそのブランドに対して思い浮かべるイメージです。それらには、「格好いい」とか「高級感がある」などポジティブなイメージもありますが、反対に、「格好悪い」とか「安っぽい」などネガティブなイメージもあります。

 そのブランドが知られ、品質が優れていると思われ、良いイメージをもたれると、消費者はそのブランドを繰り返して買うようになります。それが「ブランド・ロイヤリティ」です。これらを総合的にまとめたものがブランド・エクイティとなります。

 Aakerのように消費者の視点からブランド価値を評価する試みがある一方、ブランド価値を貨幣評価する試みもあります。例えば、Interbrandは、「Best Global Brands」として、ブランド価値を貨幣評価し、毎年、ランキングとして公表しています。

 2019年のランキングにおいて、1位がAppleで、以下、Google、Amazon、Microsoft、Coca-Colaと米国企業が上位5位までを占めます。6位が韓国企業のSamsungで、アジアの企業で最も高いブランド価値となります。日本企業の最高位はトヨタで7位す。残念ながら、100位内に入った日本企業は、トヨタを含め7社のみとなります。

 ブランド価値の向上は、古くて新しい日本企業の本質的問題と言えます。

 1980年代、日本企業は、世界中を席巻し、「Japan as Number one」とまで言われました。当時、フィンランドで行われた消費者意識調査において、日本製品に対する評価は、コストパフォーマンスが良いこと、耐久性が高いことでした。ところが、所有の満足度や他人に自慢できることのスコアは、他国の製品よりも低かったのです。

 日本企業の製品は、コストパフォーマンスに優れた製品だとは思われるものの、それが日本製品に対する愛着やファンの形成までは結びついていなかったのです。愛着を伴ったロイヤルティのことを「真のロイヤルティ」といいますが、日本企業の製品に対する「真のロイヤルティ」は構築されていなかったと思われます。

 このように、ブランド価値の向上は、日本企業にとって、従来から指摘されている課題だったのです。韓国企業や中国企業がコストパフォーマンスに優れた製品を提供している現在、日本企業におけるブランド価値の向上は、一層、重要になってきていると考えられます。

ブランド価値の向上は、収益力の向上と関係します。その際、willingness to pay(WTP:支払意向価格)に注目する必要があります。

 あるブランドに対して、ある人は5千円なら買っても良いと思い、別な人は3万円を出してでも買いたいと思うことがあります。こうした個人の支払っても良い価格のことをWTPと呼びます。WTPに差が生まれる要因が、ブランド・コミットメント、すなわち、そのブランドに対する愛着です。ブランド・コミットメントが低い場合、価格を上げると消費者は別のブランドにスイッチしてしまう可能性があります。あらゆるコストが増大している現在、それを企業努力で吸収することには限界があります。ブランド価値を向上させることによってWTPを押し上げ、収益を高めることが必要だと言えます。

 日本企業のブランド価値の低さの背景には、技術志向の強さ、すなわち、良い製品を作れば消費者がついてくるという考え方があると思います。もちろん、優れた技術に基づいた製品は重要です。しかし、先に述べたように、知覚品質と客観品質は別ものです。開発者がいくらスペックの高い製品を作っても、消費者が喜ぶとは限らないのです。ブランド・コミットメントを向上させること、そうした考えを経営の主軸に置くこと、すなわちブランド価値経営が日本企業の課題だと言えます。そして、それがかねてから指摘されていた課題であったことを考えると、ブランド価値経営は日本企業の本質的問題と言えるでしょう。

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