企業の原点である自身の存在意義から、SDGsの取り組みを考える
トランスフォーメーションとは、姿形が様変わりするほどに大きく変える、大変革するということです。
それには社会や経済のルール変更も必要で、しかも、持続可能で包摂的な社会をつくるためには、国レベルだけでなくグローバル規模の大きな変革が必要です。政治の役割が大きいのはもちろんですが、そのとき大変革の推進力として期待できるのは、むしろ企業です。
なぜなら、企業は求められる問題解決に対して、グローバルビジネスを通じたバリューチェーン全体で、様々なステークホルダーを巻き込みながら、現実の解決策を提示していくことが可能だからです。
実際、そうした使命感でSDGsに取り組んだり、推進しているという企業は多くなっています。
しかし、一方でSDGsの本質や企業に求められることを理解せずに、ただ流行に乗っただけ、あるいは表面的なイメージづくりだけに終わっているケースも見受けられます。
そんな企業を「SDGsウォッシュ」、すなわち、SDGsに取り組んでいることをアピールするだけで、実際には何ら意味のあることはしていない、と批判する言葉もあります。
いま企業に求められているのは、社会における自らの存在意義を、以上の文脈において見つめなおすことです。つまり、我が社は社会においてどういう存在であり、持続可能で包摂的な社会の実現にどういう役割を果たしうるかを、企業の目的や存在意義など原点に立ち返って問い直すことです。
すべての企業は人々の様々なニーズに応え、利便性や生活水準の向上などに貢献してきたわけです。その意味で、社会のためにならないことをやって存続してきた企業はひとつもありません。しかし、原点にまで戻って改めて考えると、自社がSDGsに貢献するためにこれから何をしたらよいのかも、見えてくるはずです。
SDGsへの取り組みは単に企業のイメージづくりのためにやることでもなければ、本業とは別にコストをかけてやらねばならない義務的負担のようなものでもないのです。SDGsは世界の「いま」と「未来」のニーズそのものなのですから、それに応えることは、ビジネスチャンスをつかむことであり、まさに事業戦略そのものなのです。
必要なのは、長期的視点で社会における自社の役割や存在意義を捉えることです。
例えば、SDGsの先進企業と言われるユニリーバは、ホール・ポールマン氏がCEOに就任した時に、経営者が本来なすべき判断を間違えてしまう、という理由で四半期決算の発表をやめました。
彼らが見ているのは四半期ではなく、10年後、30年後の社会と自社のあるべき姿です。そこから逆算して、いまなにをすべきか考えるバックキャスティングで経営戦略を描いているのです。
当初、四半期決算の発表をやめると株主が離れてしまうのではと言われましたが、ポールマン氏在任中、実際にはユニリーバの企業価値は大きく向上しています。
ポールマン氏を引き継いだアラン・ジョープ氏もまた、自社の存在意義を考えることは、それを収益より優先させることではない。むしろ存在意義に立ち返ることで収益をドライブできる、と言い切っています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。