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2025.10.30

データを通して実社会の課題や現象に挑む、統計学の現在とこれから

データを通して実社会の課題や現象に挑む、統計学の現在とこれから
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データに規則性を見出し、予測や解釈の手がかりを与えてくれる統計学。医療、政策、金融、気象情報など、私たちの生活のあらゆる場面で活用されており、情報処理技術の発展によってその可能性はますます広がってゆくと期待されています。そんな流れのなか、明治大学では、2026年度から新たに総合数理学部 現象数理統計学科がスタート(「現象数理学科」から名称変更)。統計学とはどんな学問で、これからどう発展してゆくのでしょうか。この機会に改めて知っておきましょう。

データの全体像を描く記述統計学と、背後の仕組みを推測する推測統計学

廣瀬 善大 一口に統計学と言っても、純粋数学的な分野から、より応用的な生活に密着した分野まで多岐にわたりますが、あえて大雑把にくくれば、あらゆるデータに関わる諸々を取り扱う学問と言うことができます。特に、データの背後に確率を想定して扱う点が特徴です。

 たとえば、自動で部屋の中を掃除してくれるロボット掃除機がありますが、その内部でも統計学が役立っています。ロボットはセンサーで周囲を計測してデータを取得します。そして、「自分はおそらく部屋のこのあたりにいる」ということを確率分布として表現します。しばらく動き回るうちに、データがさらに蓄積されて確率分布が絞られてゆく。この仕組みも、統計学の応用なのです。

 統計学は、大きく「記述統計学」と「推測統計学」の2つに分けることができます。

 記述統計学はいわば古典的な統計学で、データを要約することにより全体の傾向を把握することをめざします。国勢調査で各年代の平均年収を調べたり、年収にどれだけ開きがあるのかを調べたりするのがこれにあたります。とはいえ、対象となる国民全体を網羅する国勢調査は、統計学で扱われるデータとしては極めて特殊です。むしろ、全体から一部のサンプルを抜き出して分析することで、全体でもこういうことが言えるのではないか、という傾向を把握したいというニーズが、もうひとつの推測統計学につながります。

 推測統計学では、データの背後にあるメカニズムや将来の結果を、データを通して推測することを目的とします。例えば医薬品について考えてみましょう。医薬品が体内でどのように働いて効果を発揮するかを、確かめるのは容易ではありません。しかし、薬が効くかどうかという結果だけならば、多くの人に実際に服用してもらうことでたしかめることができます。いろいろな条件の人を用意し、どのような人には効いて、どのような人には効かなかったというデータを集めて統計的に処理することで、「そもそも薬が効くかどうか」を検証することができたり、「薬が効くかどうかにはこういう要因が関わっているのではないか」という仮説をつくることができるというわけです。推測統計学は、例に挙げた医薬品の承認プロセスのほか、経済の分析から心理学、気象予測までさまざまな場面で活用されています。

 このように、統計学は広く社会や経済の実態を把握する手段として発展してきた学問で、実社会とは切り離せないものです。その一方で、より複雑な対象を精緻に捉えるための理論的・数学的な研究も盛んに行われています。私自身は、推測統計学において適切なモデルを推測する統計的推定や、データの確率分布を幾何学的に処理する情報幾何学といった分野に取り組んでいます。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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