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「心の故郷」と言える土地やコミュニティが増えるのは幸せなこと
2025.02.26

人生のターニングポイント「心の故郷」と言える土地やコミュニティが増えるのは幸せなこと

リレーコラム
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教授陣によるリレーコラム/人生のターニングポイント【104】

私にとってのターニングポイントは、都会から地方へ移り住んだことです。その後の人生に対する考え方が自由になるきっかけにもなりました。

幼少期から大学院時代まで都内で育った私は、友人関係や行動範囲がほぼ23区内で完結してしまっており、都会での生活しか想像がつかない状況でした。しかし博士後期課程のある時点から、茨城県のつくば市に移り研究所に通うことになったのです。それほど地方とは言えないかもしれませんが、知識も経験も乏しい当時の私にとっては、これまでのすべてを置いていくような絶望感に襲われました。

転居してからは、アパートと研究所の往復以外、ほとんど何もなく過ごしていました。広々としていて周りは知らない人だらけ。コンビニへ行くにも長く歩かなければいけません。急に不便になって気晴らしもできず、自分で自分を追い詰めるような、閉じた生活をしていました。周囲との接点もなく、その状況に馴染んでいく機会もなかったように思います。

しかしやがて、研究所で接する人たちが少しずつお誘いをくれ、出かけるようになっていきました。つくば市は研究所が集まっている特殊な場所です。日本だけでなく世界中からやって来た研究者たちが集まるバーもありました。新しい土地に来た人たちは、自分を受け入れてもらう必要もありますが、つくば市は人を受け入れる面でとても柔軟だと感じます。すぐにみんながいい友達になれる環境がありました。

慣れ親しんだ東京から出るのを怖がっていたけれども、どこへ行っても温かく豊かなコミュニティがある。1年、2年と交流し過ごすうちに、心のよりどころとなるような居場所ができました。

以来、10年以上が経っても、当時、出会った国内外の人たちと仲良くつながっていて、今もその影響で視野が広がり、楽しく過ごせています。これらの経験を通して、どこにいっても大丈夫、なんとかなるという考え方も得られました。

こんなのはごく普通のことかもしれませんが、当時の私にとっては初めての体験でした。気がつけばつくば市は、私の第二の故郷になり、今でも時々、里帰りをしています。自分にとって「心の故郷」と言える土地やコミュニティが増えることは本当に幸せです。また、人が住む土地にはそれぞれのコミュニティがあり、いろいろな人にとっての故郷があるということを意識するきっかけにもなりました。

研究に対するスタンスも含め、オープンになって、いろんな可能性に向き合ってみることは大事です。つい自分の価値観が一番自分に合っていて一番大切なものだと思いがちですが、人と会うなかでそこも変わっていく。新たな挑戦を通じて想像できなかった体験をすることは、その後の幸せにもつながるのだと実感しています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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