
わからないことが不安や疑心暗鬼を生み、金融危機に繋がる
リーマン・ショックが起こる前年の2007年、サブプライム問題が起きます。要は、アメリカの住宅バブルが崩壊して、サブプライムといわれる中流層の住宅ローン返済が滞り、担保である住宅も価格が下落しているため不良債権になるという問題です。いまではリーマン・ショックの研究が進み、サブプライム・ローンのローン債権が組み込まれた金融デリバティブ商品がつくられ、それが世界中に売られていたことが知られています。ところが、当時私は金融機関で仕事をしていましたが、サブプライム問題はアメリカの住宅バブル崩壊というローカルな問題という認識でした。まさか、これで金融機関が潰れるというような信用不安に繋がるとは思いもしませんでした。また、こうした情報が伝わってきても、政府が金融機関を潰すようなことはないだろうという気持ちもありました。実際、翌年の2008年の夏頃には嫌なムードが少し持ち直してきたのです。ところが、9月に大手投資銀行であったリーマン・ブラザーズが倒産してしまい、事態は一変します。日本でも、日経平均が転がり落ちるように下がり始め、私たちは驚いたまま、ただじっと見ているだけでした。仲間のコンサルタントの中には、いま買いを入れるのが賢い、と言う者もいましたが、あまりのスピードで下落していく日経平均の数字を前に、何もできずただ押し流されるような感じだったのです。
なぜ、このようなことになったのか。最大の原因は、私たちはことの重大さをまったくわかっていなかった、ということです。サブプライム・ローンに対する認識があまりにも低かったのです。また、とてつもないスピードで一気に世界中の金融市場や景気が悪化した状況を、経済学者は、従来の経済理論では対応できないと言っています。つまり、後になれば研究も進み、その金融危機が起きたきっかけや原因をいくらでも指摘することができますが、危機が発生したとき、その渦中にいる者はなにが起きたのかもわからないような状態になるのです。前回、金融危機に共通する要因は人の心理だと説明しました。不安や疑心暗鬼がパニックのようになっていくことですが、なぜそうなるのかといえば、現状がわからないからです。未知のことや、前例では説明できないことを目の当たりにすると、人は思考停止のような状態に陥り、ただ押し流されてしまうのです。それが金融危機の大きな要因であるとすれば、金融危機を予測して防ぐのは非常に難しいことがわかると思います。
次回は、昔とは異なる現代の金融危機について解説します。
#1 金融危機はなぜ起こるの?
#2 リーマン・ショックはなぜ起こったの?
#3 金融危機はなぜ世界に波及するの?
#4 金融危機を防ぐことはできる?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。