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「コラーゲンが美肌に効く」にチョット待った!

  • 明治大学 情報コミュニケーション学部 教授
  • 石川 幹人

コラーゲンを摂ると美肌になるという話を聞いたことはないでしょうか。さらに「コラーゲンは体内のタンパク質の約30%を占めており、組織の柔軟性を保つ役割を果しているが、加齢とともに減少していく」などといった科学的な説明が加わると、「美肌を維持するためにコラーゲンを摂らなくては」と思ってしまいます。しかし、そこには落とし穴があるのです。

「科学する心」から疑似科学が生まれる

石川 幹人 狩猟採集によって生きていた先史時代の昔から、人は体験される事象の中にパターンを見つけ出し、それを用いて将来を予測し、生活に役立ててきました。例えば、「花が咲き終わり、茎が枯れ、三昼夜して掘るとおいしいイモがとれる」といった具合です。試行錯誤や失敗を繰り返すうちに、規則的なパターンが確立し、確実な理論として使えるのです。これが科学という営みのはじまりです。

 現代でも、新しい理論や、新しいテクノロジーが出てくると、本当に上手くいくのか多くの科学者が議論し、10年、20年かけて実験や検証を繰り返します。そして、間違いないだろうとなったときに初めて市民に向けて公表します。それが「確実な理論」を求める科学本来のあり方です。最近話題になった重力波も、アインシュタインがその存在を予言してから100年の間、様々な試行錯誤を繰り返し、ようやく初めて確実な観測に成功したのです。

 ところが、検証が十分に行われていない段階で一般市民の間に情報が広まることがあります。一見、科学的な装いをしていますが、その正しさが十分に検証されていないものは「疑似科学」と呼ばれ、科学の範疇には入りません。

 では、なぜ疑似科学が人に信じられ、社会に広まってしまうのか考えてみましょう。

人の“信用する傾向”が利用される

 人は体験の中から学習します。誰でも、成功を体験すれば、それをもとにして次も同じように対処しようとします。そしてまた、たまたま成功すると…。人はこの成功の体験談を身近な人に話すかもしれません。すると、本来は偶然の成功例だったかもしれない内容が、誰もが成功するパターンであるかのように広まることがあるのです。他人の個人的意見であっても、社会の常識であるかのように考え、信用してしまう傾向が人にはあるからです。

 この傾向は、私たちの心に深く根ざしています。かつて100人程度の集団で暮らしていた先史時代に、人は生き抜くために周りの人々の行動を模倣し、協力し合うよう進化していったからです。近年の研究で、他人の行動を見ただけで自分が行動したのと同様に動作する、「ミラーニューロン」(鏡のように働く神経細胞)が脳の中に見つかっています。それが人の共感や同調の根源とみなされています。愛用者の体験談を表示する広告などは、人のこうした傾向を利用しているのです。

 ここに一見論理的な説明が加わると、さらに信用されやすくなります。たとえば、「コラーゲンを摂ると美肌に効く」理由として、「コラーゲンは皮膚の構造や柔軟性を保つ役割を担っている」などと、人体の構造やコラーゲンの機能についての説明がつけられます。すると人々は、「コラーゲン摂取が肌に良いことは科学的に明らかなのだ」と思いがちになるのです。しかし、コラーゲンを食べたからといって、胃や腸の中で吸収され、それが肌までそのままの形で運ばれ、機能するということは基本的にありません。食べたコラーゲンが、肌のコラーゲンに再合成されるというのは、単なる希望的観測に過ぎないのです。コラーゲンを売りたい事業者が、この否定的論理を説明することはありません。

科学者の“暴走”もある

石川 幹人 また、科学者の中には、研究の途中の段階で、その内容を一般市民に向けて発表する者がいます。本来、研究成果は科学の専門誌などに論文として発表し、世界中の研究者のさらなる検証を得ることが重要です。本人は自分の説に自信があり、一刻も早く発表したいという気持ちがあるのかもしれませんが、メディアなどには、それを大きく取上げ、話題にしようとするスクープ狙いの記者もいます。その結果、一般市民を惑わし、特定の業界に損害を与えることにもなりかねません。

 最近、牛乳有害説がまことしやかに広がりました。それによる牛乳の売上げ低下や、日本の酪農業が受けた打撃は小さくありません。しかし、調査してみると、この説を展開する医師の理論は妥当に構築されたものではなく、理論を支持するデータも十分に得られていませんでした。科学的な検証がなされる前の理論が、あたかも科学的に明らかであるかのように広まるのは大きな問題です。

科学的な態度を推進するための科学コミュニケーション

石川 幹人 一般の市民がこうした疑似科学に惑わされないためには、その話の根拠となるデータを求めることが良いでしょう。商品であれば、広告などで語られている内容の裏付けとなるデータがあるか、メーカーに問合せてみましょう。実は、広告表示には様々な規制があり、データを広告に示したくとも示せない事情もあります。問合せに、「待ってました」とばかりにデータを開示してくれるかもしれません。逆に、データを出し渋るようであれば、根拠が怪しいと推測できます。

 こうした観点から、「機能性表示食品」という制度が2015年にスタートしました。健康食品やサプリメントなどを含む食品全般が対象で、事業者は安全性と機能性の根拠となる情報などを消費者庁に提出すれば、「機能性表示食品」と明示し、商品の機能性を表示できる制度です。提出された情報は消費者庁のウエブサイトで公開されます。メディアの中には、公開された情報やデータを取上げ、その問題点を指摘する者もいますが、いまは、データが提出されていない商品のほうを指摘するべきでしょう。まずは「データが提出されていないサプリメントは買わない」といった意識を一般に広めることのほうが必要です。

 一般の人にとって、科学の知識を身につけることはたいへんですが、論理的な確認をするという“科学的な態度”は誰でもとることができます。疑似科学に惑わされないためには、そうした態度を皆で身につけていくことが大切です。

 私も、今年2月に『なぜ疑似科学が社会を動かすのか』(PHP新書)を出版し、そこで疑似科学を見抜き対処する方法を詳しく紹介しました。また、「明治大学コミュニケーション研究所」では「疑似科学とされるものの科学性評定サイト」を開設しています。そこでは様々な事例の科学性を評定し、一般の人だけでなく、事業者の人たちも含めて質疑応答をし、知識レベルを上げていくことを目指しています。それが、私たちにとっての“科学コミュニケーション”であると考えています。科学的な態度が市民に広く浸透していくよう、今後も活動していきます。

■『なぜ疑似科学が社会を動かすのか』(PHP新書)
主な内容 ●金縛りの正体 ●なぜお守りを信じるのか ●天文学もオカルトに由来する ●見せかけの先端科学にご用心 ●「秘伝の技」と科学技術 ●メディア・政府・科学者 等

■「疑似科学とされるものの科学性評定サイト」 明治大学 科学コミュニケーション研究所
http://www.sciencecomlabo.jp/
これまでの主な評定項目 ●サプリメント(DHA・EPA、ヒアルロン酸 等) ●民間代替医療(磁石磁気治療、鍼灸 等) ●生活環境改善(活性水素水、温泉 等) ●自己啓発(血液型性格判断、手相術 等) ●不思議現象(ESP、UFO 等) ●安全性に関する言説(電磁波有害説、牛乳有害説)

※M's Opinionの記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

プロフィール

石川 幹人

明治大学 情報コミュニケーション学部 教授

研究分野
認知科学、科学基礎論、科学技術社会論
研究テーマ
認知的錯覚や科学認識の研究、科学リテラシーの教育方法開発
【キーワード】疑似科学、科学コミュニケーション
主な著書・論文
  • 『心と認知の情報学~ロボットをつくる・人間を知る』(勁草書房・2006年)
  • 『だまされ上手が生き残る~入門! 進化心理学』(光文社新書・2010年)
  • 『人間とはどういう生物か~心・脳・意識のふしぎを解く』(ちくま新書・2012年)
  • 『超心理学~封印された超常現象の科学』(紀伊國屋書店・2012年)
  • 『入門・マインドサイエンスの思想~心の科学をめぐる現代哲学の論争』(共著・新曜社・2004年)

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