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GPS捜査をめぐる最高裁判決の意義

明治大学 法科大学院 専任教授 清水 真

今年の3月に最高裁は、警察のGPS捜査はプライバシー権を侵害するとし、今後もGPS捜査を行うには、「新たな法律が必要」との判断を出しました。犯罪捜査とプライバシー権とのバランスは以前から議論されてきたことですが、捜査手法に新たな科学技術が導入されることが増えてきたいま、あらためてこの問題を考えてみる必要があります。

窃盗の容疑者を対象に行われていたGPS捜査

清水 真 いわゆるGPS捜査とは、捜査対象者の車両にGPS(全地球測位システム)端末を取り付け、車両の位置を把握する捜査手法です。もともと、車はナンバープレートを付け、人が見ているところを走っているもので、基本的に車の位置情報にプライバシーはないと考えられていました。警察もその考えに沿ってGPS捜査を行ってきたのです。つまり、明らかにプライバシー権のある車の中で交わされる会話などと、車の単なる位置情報は違うという考えです。しかし、今年3月に出た最高裁判例では、その車がどこに立ち寄るかによって、交友関係・嗜好・宗教等もわかるので、結局、位置情報だけではなく、その人のもっと深いプライバシーも害される恐れがあるという判断をしました。さらに、特別な機器を使い、網羅的、継続的に監視するのは強制処分で令状が必要としました。また、今後もGPS捜査が広く用いられる有力な捜査手法であれば、立法的な処置が講じられることが望ましい、としています。つまり、GPS捜査を行うための条件を盛り込んだ法律を国会でつくらないと、裁判所は令状請求の審査ができないと言っているわけで、現状では、GPS捜査は行えないということになります。警察によるGPS捜査をプライバシー権の侵害と捉えていた人たちは、この判例を歓迎し、マスコミも、監視社会に待ったをかけた、という論調が多いように思われます。そのため、一般の市民の人たちも、いつ警察からマイカーにGPS端末を取り付けられるかわからず、この判例により、プライバシー侵害が防がれた、というイメージをもった人が多いと思います。しかし、本当にそうなのか、冷静になって考える必要があります。

 まず、この判決の事案ですが、捜査対象者は組織的な窃盗の容疑者です。同じ敷地内に19台の車を持ち、そのすべてが盗難車で、偽造されたナンバープレートがしょっちゅう付け替えられていました。警察は、複数の車両にGPS端末を取り付け、6ヵ月間にわたってこの容疑者の動向を監視しました。その間、GPS端末の電池が切れると、無断で個人の敷地に入り、電池の交換も行っていました。今回、最高裁により警察のGPS捜査は違法との判例が出ましたが、この容疑者には、窃盗の罪で懲役5年6ヵ月の実刑が確定しています。さて、皆さんはこのGPS捜査をどう判断するでしょう。いろいろな議論があると思います。警察のやり方に問題があるのも確かです。容疑者にもプライバシー権や人権はあります。しかし、この事案から、一般の市民が乗るマイカーにも、警察がGPS端末を取り付ける恐れがあると感じることはあるでしょうか。実は、捜査関係者によると、GPS捜査を行うのは、組織犯罪がほとんどだということです。組織的窃盗犯は、警察に追跡されると時速150キロ以上の速度で逃走し、ナンバープレートも付け替えてしまうことがあります。だから、警察はGPSに頼ったという面があるのでしょう。その捜査手法は議論されるところでしょうが、その捜査手法が、交通法規を守って走り、偽造ナンバープレートなど付けたこともない、ましてや盗難車でもない一般市民のマイカーにも及び、その結果、一般市民が不当な不利益を受けるようなことがあるでしょうか。まず、ないだろうと思います。

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