
2022.06.28
明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト
歴史に名を残す偉人から、カリスマ性のある著名人、その道を究めた学者まで。明治大学・教授陣に影響を与えた人物を通して、人生やビジネスに新たな視点をお届けします。
これまでに影響を受けた方はたくさんいますが、人生を大きく変えたのは、大学院時代の恩師の松下温先生と、会社員時代の上司だった石井裕先生との出会いです。
松下先生は、もうお亡くなりになっているのですが、私が現在取り組んでいる、グループウェアの研究分野を日本で立ち上げた一人です。
出会いは、私が修士2年生のとき。指導を受けていた先生の後任として着任されたのが、松下先生でした。
先生からの最初の指令は、いきなりテーマとグループを任され、「担当テーマについて調査し、内容を報告しなさい」というもの。
恐る恐るまとめたものを報告すると、「駄目な報告だったらこれを読ませようと思っていた」と、分厚い論文集を渡されました。
同時に、「よく調べているようだから、これも使いなさい」といただいたのが、ご自身がその論文集を読まれたときの手書きのノート。
そのノートを埋め尽くす、慌ただしく書き込まれたように見えるたくさんの文字から、頭の切れる先生であっても地道に努力を重ねていることが感じ取れ、人生にも研究にも近道はないことを理解しました。そして同時に、人を力一杯奮わせる導き方を学んだのです。
企業での勤務経験もある先生の活動は大変アグレッシブで、ときに誤解を受けることもあったようですが、教育者としては丁寧に指導される方で、卒業後もよく相談に乗っていただき、大好きな先生でした。
二人目の石井先生は、私が大学院を出て就職した会社での直属の上司でした。
現在は、MIT(マサチューセッツ工科大学)メディアラボの副所長を務められていますが、当時率いていたのは、先生と先輩、私の三人という、本当に小さなグループ。世界に出ていこうと、皆で必死にチャレンジしていました。
「人の2倍働いて、3倍の成果を出す」が先生のモットーと言われていますが、自分の信じる道を進むために手を抜かずに一生懸命努力される方です。
議論の中で先生から意見を求められたときに、1秒ちょっとの間をおいて答えられないと、「何も考えていないことがわかった」と言われ、何度も悔しい思いをした覚えがあります。
その課題について日頃から考え続けるのはもちろん、議論の進展に合わせて次に何を言うべきか、どんな可能性があるのか、あれこれ思考を巡らすことができていないという指摘だったと思うのです。
当時の私は、相手の話を受け止めることで精一杯だったのかもしれません。
振り返ると、お二人の先生と一緒にいたときは未熟だったため、わかっていなかったことがたくさんありました。それでも、教わったことに背を向けず受け止めていれば、いつかその意味が理解できるようになるのだと思います。
皆さんも、仕事をしていく中で意見が異なる人や苦手だと感じる人もいるかもしれませんが、各々の立場を理解し、素直に耳を傾けることで、様々なものを学べるはずです。
経験を記憶に留め、それが役立つ生き方をしていくことが大切なのではないでしょうか。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。