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アニメーションは多くの人たちを繋げるコンテンツになっていく

1997年、「文化庁メディア芸術祭」が新設されます。これは、小説や絵画、彫刻など既存のハイカルチャーではとらえきれない、マンガ、ゲーム、アニメーションや、デジタルテクノロジーを使ったクリエイティブなアート作品を法律で「メディア芸術」と定義し、振興していこうというものです。

その第1回では、「もののけ姫」(宮崎駿監督)と「新世紀エヴァンゲリオン」(庵野秀明監督)が受賞しています。アニメーションの社会的認知が高まり、ようやく国家から「文化」と位置づけられるようになったのです。

ビジネス面でも、アニメーションは有力なコンテンツとなりました。特に「エヴァンゲリオン」はビデオソフト売上によって大きな利益をもたらし、多くの新作にチャンスをもたらしました。

さらにデジタル技術の高度化で、DVDが普及し始めます。すると、アメリカなど諸外国へは放送ではなくDVDパッケージで輸出されるようになりました。

当時、同じく高度化し始めていたインターネットで、ファンが観た作品を語り合う楽しみ方が広がっていました。DVDによって作品を繰り返し観ることができるようになったこともあり、その感想や意見は詳細な部分に及ぶようになっていきます。

ポップカルチャーとは、本来は流行もので、次々と新しいものが出てきて、消費されて忘れられるようなサイクルのものでした。それが国際化やネットの分析で変わってくるわけです。

DVDビジネスは、2003〜2005年にかけて普及したブロードバンドによって配信ビジネスモデルが立ち上がり、2008年ごろから衰退していきますが、アニメーション作品を繰り返し観て、感想を楽しむスタイルは、さらに進化を続けていきます。

それを象徴する作品が、2006年の「涼宮ハルヒの憂鬱」(石原立也監督)です。

特に、エンディングでキャラクターたちが音楽に合わせて踊る通称ハルヒダンスを、いろんな国の人たちがコスプレし、時に独自の解釈や工夫を加えて踊り、流行し始めたYouTubeにアップしたことは大きな変化でした。アニメが放送された後も消えず、世界中の多くの人たちが楽しんで共有するという現象が起きたのです。

この現象が画期的だったのは、受け手から起こした現象という点です。制作者とか、出版社とか、メーカーなど送り手が仕掛けたのではなく、ファンが良いと思い、楽しいと思ったものを、ファンの意思で表現して広めた。その価値観が様々な国の人たちの心を動かしていったのです。

私は、ここにアニメーションの大きな可能性を感じるのです。

次回は、日本のアニメーションの国際言語性について解説します。

#1 日本のアニメはいつから世界で人気になったの?
#2 アニメはオタク文化?
#3 アニメを観て、幸せになる?
#4 日本のアニメの特徴って?
#5 日本のアニメの未来はどうなる?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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