甘い薬では日本は治らない
いま、安倍首相は「新三本の矢」など、新たな成長戦略を打ち出していますが、そこには、従来の「三本の矢」を検証した視点がまったく感じられません。「三本の矢」のどこが上手くいき、どこが上手くいかなかったのか、そうしたレビューを踏まえた上で、足りなかったところを強化するために、このような新しい政策を打ち出した、という説明が一切ないのです。その姿勢は、本気で改革に取組むというより、次々と新しい政策を出し、国民に関心をもってもらい、その期待感を選挙の勝利につなげていく意図が感じられます。国民の痛みをともなうような政策を口にすれば、選挙で苦戦するかもしれません。しかし、本当に必要な政策は痛みをともなうものです。良薬は口に苦しといいます。甘い薬ばかりでは、病巣を良くすることはできません。日本経済が低迷している病巣に的を絞った対策をとらなければ、何も変わりません。
充実した社会保障制度で知られるスウェーデンでは、消費税は25%です。いきなり25%になったわけではなく、段階的に増税していきました。もちろん、スウェーデンの人たちも増税は嫌だったでしょう。しかし、政府が増税の必要性をちゃんと説明し、国民に理解を求めました。国民は政府を信頼し、25%の消費税に納得するとともに、税金が無駄に使われていないか関心をもち、チェックしています。国民に負担を求める政策を説明するのは、政治家にとって困難な仕事でしょう。その政策が受け入れられなければ、選挙で負けてしまうかもしれません。しかし、いま日本の政治家に最も求められる仕事ではないでしょうか。
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