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マイナンバーの隠れたリスクに目を向けよう

村田 潔 村田 潔 明治大学 商学部 教授

注視すべきなのは今後のファンクション・クリープ

 当初政府は、マイナンバーの用途は、税、社会保障、激甚災害対応に限るといっていましたが、すでに、用途を拡大することが公表されています。例えば、マイナンバーを医療情報に結びつけると、治療に役立てられるだけでなく、親や親類、さらには祖先の医療情報を一括して精査することが容易になり、罹りやすい病気の傾向を把握することで、個人ごとにオーダーメードした予防医療に役立てることができます。用途を拡大するときは、このようにメリットのみが喧伝されたり、または、目立たないように公表するケースもあります。情報システムに当初目的とした以外の用途を徐々に追加していくことをファンクション・クリープ(function creep)といい、特にプライバシー侵害が懸念されるマイナンバー・システムの場合、新たな機能の追加や用途の拡大に注意を払うことが重要です。

 日本人は、プライバシーというと個人情報や家庭生活のことと捉えがちです。しかし、プライバシーにはさまざまなものが含まれます。たとえば、夫婦が子どもを持つか持たないかの判断は生殖権(reproductive rights)に関わるものであり、個人的な決定に関するプライバシー(デシショナル・プライバシー(decisional privacy))に属する問題です。予防医療によって食事内容を指示することは、自分の心身をどのような状態に置くのかを自ら決定するデシショナル・プライバシーの侵害にあたることも考えられるのです。海外のプライバシー研究者たちは、ファンクション・クリープによる個人の自由の制約を問題視し、これをどうコントロールするかを議論しています。しかし、日本ではこうした議論はほとんどされていません。

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