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発生主義・複式簿記から改革がはじまる

山浦 久司 例えば、新しく幼稚園の運営をはじめた市の場合、現金主義・単式簿記によって、園舎の建築費用、先生や職員の人件費、幼稚園の運営に関わる日々の経費などを算出し、それをベースに園児一人あたりの年間コストを計算して月々の保育料を設定すると、いつか赤字がたまることになります。先生方の退職金、建物の老朽化にともなう建て替え費用などが考えられていないからです。ところが、発生主義・複式簿記を行っていれば、あらかじめ退職給付を負債として計上し、建物の減価償却も行うことになります。正確な園児一人あたりの年間コストを計算することができ、より適正な保育料を設定することができます。
 また、正確なコストを把握することは、コストの源泉を明らかにすることでもあり、無駄を省く判断を適切にして、効率化を図ることにつながります。事実、現金主義・単式簿記から発生主義・複式簿記に切り換えた自治体では、現場の職員の日々のコスト意識が高まったという話を聞きます。また、市民に対してより正確な財務情報を公表するなど、財政の透明性が高まるとともに、議会では客観的な会計データをベースにした議論がなされるなど、行政改革の起点となっています。

会計制度の改革は世界の潮流

 総務省も行政改革の一環として会計制度の改革を重視しており、会計制度の総務省モデルを2001年に提示しました。当初は、従来の現金主義・単式簿記をベースに、貸借対照表、行政コスト計算書を作成させ、その後、モデルを改良し、資金計算書、純資産変動計算書なども作成させるようにしましたが、正確性に問題があり、現在は、発生主義・複式簿記をベースに全国統一の財務諸表を作成する、新地方公会計モデルを推進中で、達成目標は2018年です。
 私は、日本会計研究学会、特別委員会の委員長として、総務省のこの新地方公会計モデルの推進の研究調査および支援を行っています。2015年3月に、総務省が各地方自治体に会計制度を改革する旨のアンケートを行ったところ、「進行中」「する予定」との回答が98.5%に達しました。やはり、自治体にとって行政改革は最重要課題であり、そのためには会計制度の改革が絶対に必要であるとの認識が普及したことは、大きな前進だと思っています。
 実はいま、ヨーロッパでも同じような会計制度の改革が進められており、EU内の国、自治体の会計制度の統一を目指しています。かつて、観光資源開発が多岐にわたり、財務状況を市長も議会も把握できなくなり、市民にも正しい情報が公表されなかった夕張市や、近年のギリシャ問題から私たちが学ぶことは、予算の配分にもまして、財政の透明化こそ民主主義の根幹をなすということです。そのためには、財務状況を客観的、科学的に分析し、現状を正確に把握し、正しい情報を公表することが重要です。そのための正確な会計データを構築する会計制度の改革は、世界的な潮流といえるでしょう。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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