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農業の“継続性”や“持続性”を見直す

明治大学 農学部 教授 竹本 田持

冷害をきっかけにした水田の「地力」

竹本 田持 1980年、日本列島は冷害に襲われ、東北地方を中心に米が不作に陥りました。ところが、同じ地域で平年作に近い収穫量だった田んぼと、一粒も収穫できない田んぼが隣り合っていて、その要因の一つとして指摘されたのが「地力」の差でした。化学肥料に頼り、有機質の不足した水田において収穫皆無のところがあり、それが「地力」の低下という表現で示されたのです。冷害による収穫量の差には、品種や水管理なども関係しますが、有機質、とりわけ完熟堆肥が十分に入っていることが重要だとわかりました。堆肥は、わらや落ち葉などを堆積・発酵させたもので、畜糞(厩肥)や食品残渣などを利用することもあります。野菜作では欠かせないものですが、取扱いや施用に手間がかかり、水田稲作では省力化もあって不足気味になっていました。気象条件が良いときには目立たなかったのですが、冷害時にそれが顕在化しました。
 堆肥は、今年入れたから翌年の収穫が上がるというものではありません。手間をかけてもすぐに結果が出るわけではなく、堆肥を入れ続けるという労働の積み重ねによって、土地の力、すなわち「地力」が徐々に上がっていきます。しかし一方で、そうだからこそ、「地力」は徐々に発現し、気象条件の変化などに対する影響を緩和することができるのだと思います。アンケート調査をしたことがありますが、農家の人たちは面積当たりの収穫量とともに、過去の労働投入、継続的に堆肥を投入してきた蓄積から「地力」の高低を推し量っていることがわかりました。その意味で、農業にとって大切なのは努力の積み重ね、持続性であり、単に目先の利益を追うことではないと思います。

「育てる」ことは「継続する」こと

 他業種の農業参入、農商工連携や六次産業化は日本の農業にとって力になるでしょう。また、農業が見直されているからなのか、価値の高まりなのか、農学部の受験生が増えています。農業の担い手である70~80代の高齢者の孫に当たる世代が、次の担い手になろうとしている兆しなのかもしれません。こうした動きや志向が、しっかり継続していくことを願っています。
 最近は、様々な取り組みにおいて、結果を早く求める傾向が強くなっているように感じます。しかし、農業は「地力」のある土づくりを通して動植物をしっかり育て、農村は人を育て、文化を育て、地域を育てます。「育てる」には、継続と時間が必要です。つまり、農家が土づくりをするように、人づくりや地域づくりにも継続と時間が必要なのです。なお、「地力」は効果が出るのに時間がかかりますが、一方で化学肥料などを使うことによって、その低下の度合いを把握しにくい面があることを付け加えておきます。
 農家が土づくりに取り組むように、社会もじっくりと農業を育てることに時間をかけてほしい。そして、農業における“継続性”や“持続性”という考え方は、いま日本の社会全体でもっと見直されるべきことではないかと思っています。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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