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知られざるTPP交渉における著作権問題―表現の自由と権利者保護をめぐって―

明治大学 情報コミュニケーション学部 准教授 今村 哲也

「非親告罪化」の功罪

――「非親告罪化」は何が問題となるのでしょうか。実際に、TPP交渉で「非親告罪化」が成立・批准されれば、何が変わるのでしょうか。

「非親告罪化」されれば、著作権者の意図に関わらず、検察が独自に動き、あるいは一般からの通報などによって逮捕者が出る可能性があります。著作権者が黙認しているようなものまで取り締まる可能性も出てきます。今まで日本は、厳密には違法だが問題視されていない著作物利用によって、サブカルチャーを中心に文化・表現活動を発展・活性化させてきた側面があります。代表的なのが、パロディー化や二次創作で、それがオタク文化、あるいはクールジャパンとして世界に発信されてきました。「非親告罪化」の影響はこれら表現の分野に留まりません。たとえば、企業内コピー(複製)や教育・研究の分野でのコピーなども形式的には著作権に抵触する場合があります。「非親告罪化」によって、どれだけ著作権者による告訴ではない公訴が起こるかは不透明ですが、検察・警察の裁量範囲が広がることは確かです。そうした潜在的なリスクがあることによって、「非親告罪化」は事業活動や表現活動を委縮させてしまう可能性があるのです。
ただ「非親告罪化」にはメリットもあります。海賊版対策です。著作権者があきらめざるを得ないような巨大な海賊版サイトや海賊版商品などを、検察の権限で取り締まり、公訴することが可能となります。海賊版の多くは裏社会の資金源と言われていますから、その意味において「非親告罪化」は社会正義の実現に資することになるとも言えます。

手塚治虫作品の著作権の行方

――「著作権保護期間」の50年から70年への延長が検討されているということですが、それが導入された場合、実質的にどのような影響があるのでしょうか。

著作物の流通に、今まで以上に制約があるということですから、文化発展の阻害要因の一つになるかもしれません。米国のポール・ヒールド教授の実証研究では、著作権で保護されている過去の人気小説は、著作権が消滅している過去の人気小説よりもマーケットで入手しにくく、値段も高くなっているという分析が示されています。また著作物の中にはオーファンワークスと呼ばれる、著作権者が所在不明のため利用許諾が得られない著作物もあります。保護期間の延長はこのオーファンワークスを増やすことになるでしょう。過去の作品のデジタルアーカイブ化を進めるアーカイブにとっては、重大な問題です。しかし、一般には、新しい作品の方がマーケットで売れるので、アーカイブやごく一部の著作物利用者を除けば、死後50年であろうと70年であろうと大きな影響はないと考えられます。ただ著名な著作物や著作者には様々な感情が働きます。たとえば、日本を代表する漫画家である手塚治虫。彼は1989年に亡くなっていますから、著作権保護期間50年とした場合、2040年には著作権を失います。日本が生んだ偉大な漫画家である手塚治虫の作品が、世界中で、好き勝手に利用される状況を多くの日本人は好ましいとは思えないかもしれません。しかし、時間が経てば公有になるというのも、著作権が持つ一つの重要な側面です。

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