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2026.01.22

「感覚にやさしい社会生活環境」をどう普及できるか

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感覚特性に応じた「合理的配慮の提供」を広めたい

 感覚の問題は目に見えず、当事者・家族・支援者も見落としていることで、適切な対応をとれていないことがあります。社会生活環境の整備に向けたもう一つのアプローチとして、教育・啓蒙活動が挙げられます。

 たとえば特別支援学級などで、音の刺激から逃れるためにダンボールのバリケードを使って作業スペースを囲っているケースもありますが、これはあまりにも痛々しく感じます。我々の専門からみると、遮音材料と吸音材料を効率的に使って機能性を強化すれば、周囲よりもかなり静かに過ごせる場所をつくることが可能です。

 わずか1万円ほどで作成可能な音環境調整用のスペースを保育所や学校などに提供し、効果を検証したところ、毎日のようにパニックを起こして自傷や他害に至っていた子どもが、休み時間にここで休むことによってパニックの頻度が減るなど、明らかな効果が見られました。

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発達障害などの子どもたちのために考案した補助具。左から順に、小空間、リラックスボックス、吸音テント、吸音のれん

 障害者差別解消法で義務化された「合理的配慮の提供」は、本人からの申請を受け、どのような配慮が適当かということを事業者が検討し、行うものです。そのため当事者自身で「こういうものが役に立つ」と知っておかなければ、使用する状況に至りません。さらには周囲の理解がなければ、特別扱いと認識され、結局は現場に導入できないおそれもあります。

 必要なのは、本人が声を上げ、周りが理解してくれる環境づくりです。具体的にどういう支援・配慮があり得るのか、まだまだ現場に知られていないので、子どもたちと合わせて周囲の大人の理解を広げることも必要です。

 この課題の解決に向けた取り組みとして、私たちの研究室では子どもや保育者・教員・支援者に向けたワークショップや授業の実施を重ねています。小学校向けの授業用コンテンツのパッケージ、音環境調整用補助具の作り方や活用事例集は、Webサイトで公開しています。日本LD(学習障害)学会やこども環境学会でもワークショップを行うことで、広がりを感じる機会も増えてきました。

 社会生活環境の整備がうまく進めば、学校などでも教員側の負担が減るのは間違いありません。しかし多忙な先生方が、自分たちで試行錯誤して環境を整えることは困難です。まずは環境によってパフォーマンスが変わり得ることが知られ、どう調整すればどういう効果が期待できるかを、より広く共有されるようにしていかなければなりません。

 感覚の特性が原因で授業が理解できず、学習に困難を抱えることになったことに気づかずに、大人になった当事者の方も多くいます。感覚特性や適切な対応を知ることによって、生きづらさや日常生活での困りごとの改善につながる可能性があることを、できるだけ早い段階で気づける仕組みづくりも重要です。

 見えにくい障害は、人によって困りごとも異なるので、実態は捉えにくいものです。そのせいもあって「感覚にやさしい社会生活環境」を整える取り組みも、まだ十分に進んでいるとは言えません。誰かにとっての障壁が、私たちのすぐ身近に存在しているという事実を知り、「整えることで助かる人がいる」という認識を広めていくことが、整備の加速につながるのではないでしょうか。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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