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2023.11.09

意外と誤解しがちな憲法の基本

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LGBT理解増進法の問題点

 憲法学者としては、6月の国会で可決・成立した「LGBT理解増進法」(性的指向および性同一性に関する国民の理解増進に関する法律)の条文にもおかしな部分を感じ取ってほしいところです。

 審議過程で、元の法案にはなかった〈この法律に定める措置の実施等に当たっては、性的指向又はジェンダーアイデンティティにかかわらず、全ての国民が安心して生活することができることとなるよう、留意するものとする〉との条文が追加されました。

 一見、当たり前のことを言っているように思うかもしれませんが、非常に問題があります。第一に、「全ての国民」の中で性的マイノリティの人々は少数派であり、多数派が「安心できない」と言えば、少数派の人々の生活が制限されうると解釈することができるからです。

 第二に、この条文では「LGBTはみんなが安心できる生活を脅かす」と捉えられかねません。法案をめぐってはSNS上も含めて「女性用トイレに『女性のフリをした男性』が入ってくる」なる言説が飛び交いましたが、処罰されるべきは犯罪を犯した人であって性的マイノリティの人ではありません。

 あるいは「盗撮されるかも」という不安を理由に性自認に基づいたトイレの使用が制限されるべきでもありません。盗撮は性自認にかかわらずダメです。

 そもそも、人の生物学的な性・性的指向・性自認といったものは、自らの意思で容易に変更することができない種類の事柄です。そうした属性や地位について保護し、保障される権利を擁護するのが憲法の重要な役割なのです。

 ちなみに、憲法学者はたとえ合憲性に疑問のある法律でも実際に違憲訴訟が起きるまでは研究対象にしない傾向があります。それゆえに、憲法学が世の中にある差別や自由侵害の問題を見逃してしまっている可能性があり、大いに反省すべきです。その意味でも、LGBTについてはやはり憲法学が取り組まなければならない問題でしょう。

 憲法学というと、条文を暗記させられて、教科書には難解な表現がたくさん出てくるイメージが強いかもしれません。しかし本来は、「自由」や「平等」の視点から物事をどのように考えていくか、ということを憲法から学ぶ学問です。

 どのような人でも、おそらく人生の中で「99」対「1」の局面を迎えることがあるでしょう。自分が「99」なのか「1」なのか、どちらの場合であっても尊厳をもって生きられる。そんな社会をつくるひとつの礎として、ぜひ憲法を学んでいただきたいと思います。


英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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