人間は自らつくった難局を乗り越える
経済成長のためには主に労働力と資本からなる生産要素の増加が必要だと述べてきましたが、これ以外の要素として求められるのが技術革新です。
いったん経済学の基本的な考え方に立ち戻りますと、財・サービスの生産量と投入される生産要素の量の間には密接な関係があり、これを数式で表したものを「生産関数」といいます。
さらにこの生産関数には、やや抽象的な「技術」という概念が影響します。詳細は割愛しますが、直感的には、商品の生産量は生産要素と技術の双方に依存して決まるということです。技術の水準は技術革新により高められると考えます。
私の研究では、たとえ人口が減っても人的投資の水準が十分であれば、持続的な技術革新を通じた経済成長は可能だという結果が出ました。個人的には、その技術革新として人口知能(AI)、高度なロボット、データ産業を捉え、これらをうまく利用することで、人口減少下の日本でも経済は発展できると考えています。
例えば、アメリカでは映画産業を中心にAIへの抵抗感が強いと報じられています。脚本や絵コンテの制作をAIが代替することで、増え続ける人口のもと雇用が脅かされるとの懸念があるようです。他方、世界市場での競争力がある日本のアニメーションでは、アイデア自体はたくさんあっても、人手が足りないという状況が起きています。そうした業界においては人間とAIは共存的関係となりえるでしょう。
また、日本では働く高齢者の年齢が上がるにつれて、ご本人たちに労働意欲があっても物理的に動きにくい方が増えていくと予想されます。その時、高度なロボット等が補佐する形で協力し、安定した労働力を提供することは可能ではないでしょうか。
つまり、日本は人口が減少する状況にあるからこそ、人間とAIが共存する可能性を見出せると思うのです。
人間は、自分たちで新しい技術を生み出します。歴史を振り返ると、その新技術によって人間自身が労働を脅かされそうになるのですが、その度に自ら難局を乗り越えてきました。
例えばATMの登場によって、銀行の一部業務は人から機械にかわりました。しかし、それで余ったお金を融資業務などへ振り分けたことで、実はATMの実装後に銀行は労働者数を増やしたという実例があります。
経済の中では人間も製品も価値を生み出すという点で同じ扱いですが、製品と違って人間は消えずに生き続けようとします。これは私の意見ですが、経済学は人間をそのような「自らつくった難局を乗り越える存在」として捉えているのだと思います。
少子高齢化と人口減少は、これまで放っておいても増えてきた人類にとって、まさに新しい難局です。たとえ人口が減っていく状況でも持続的な経済成長は可能である、と私は信じています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。