Meiji.net

2023.08.09

人間が減り続ける日本で、経済は成長できる?

人間が減り続ける日本で、経済は成長できる?
  • Share

日本は今、急激な人口減少を経験しています。2021年10月から22年同月までに減った人数は約56万人。つまり一年で大きな地方都市が消失した計算になります。少子高齢化によって様々な産業で人手不足が慢性化し、経営にも深刻な悪影響を及ぼす中、どのような経済政策が望ましいのでしょうか。

経済発展に致命的打撃を与える少子化

平口 良司 私の研究テーマである経済成長論は、国や地域の経済が持続的・安定的に発展していくには何が必要か、または、なぜ経済が停滞してしまうのかを解明しようとする学問分野です。

 結論から言うと、少子高齢化は経済の発展に致命的な打撃を与えてしまいます。人類史を振り返っても明らかなように、やはり人間がいないところでは経済はうまく回りません。

 経済成長論では、一国の経済規模が長期的に増加し、その国の国民が物質的な面で豊かになっていくことを「経済成長」とみなします。具体的には主に一人当たりの国内総生産(GDP)でその国の経済成長率を測ります。

 日々の経済ニュースにおいては、誰が何をどのように買うかといった支出の面、経済学でいうところの「需要」が注目されますが、経済成長論においては、誰がどのように生産をするかという「供給」を重視します。なぜならば、作られる商品(財・サービス)の中身や生産状況が全く変わらないのに人々の購入量だけが増え続けるという状況は起こり得ないからです。
 
 財・サービスの生産に必要なものをまとめて「生産要素」といい、そのひとつが人々の「労働(力)」です。少子化が進行している日本では今後、労働力が急減すると考えられ、高齢化は一人当たりのGDPに悪い影響を与える可能性があります。

 国立社会保障・人口問題研究所の推計によれば、2070年には総人口は現在の約7割まで減少し、うち65歳以上の人口が約4割を占める見込みです。一方、労働力の中心として期待される15〜64歳の「生産年齢人口」は、現在の約60%から約52%まで落ち込むと予測されています。

 女性や高齢者の就業が進んではいますが、このままの勢いで若年層が減り続ければ、まもなく労働力の確保には限界が訪れるでしょう。

 少子高齢化の抜本的な対策は、やはり出生率の改善です。2023年6月現在、政府は児童手当の拡充や出産費用の保険適用など、さまざまな形で少子化対策を検討しています。

 しかし、出産・育児を金銭的にバックアップする政策は以前から実行されてきましたが、残念ながら、出生率向上に劇的な効果を発揮したとは言えません。

 もちろん、人口増加の議論とは別に、保育園の整備や保育士の環境改善などは必要ですが、出産の意思決定は個人の判断に依ります。したがって、いくら補助金等で促したとしても、これによって出生数が急に増加するというのは考えづらいでしょう。

 とすれば、人口が減少し少子化が止まらない中においても経済を発展させるべく、少子化対策とは別の方向から成長戦略を考えなければなりません。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

  • Share

あわせて読みたい