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現代の社会的課題を解決する糸口は、中庸の欲張り!?

本所 靖博 本所 靖博 明治大学 農学部 准教授

複眼的思考を育む原体験を

 私の専門である会計学には、「帳尻が合う」という言葉があります。会計以外でも使われる言葉ですが、そもそもは、収支が合うということです。

 すなわち、手元に得たものがあるなら、失って見えなくなったものがあり、その両者は釣り合っているということです。この考え方は、借方と貸方の表裏の側面から、ものとお金の動きを表す複式簿記に活用されています。

 こうした複眼的思考で物事を捉えていくと、お金を払ってものを得れば、そのものを作った人との関係性が清算されるのではなく、むしろ、関係性が築かれていくことがわかります。

 そうした関係性に気づいていくと、「帳尻が合う」とは、互いがウィン・ウィンの関係になることにも気づきます。

 この関係性が社会にも及んでいくことを、昔の近江商人は「三方よし」と言っていました。最近は、「未来よし」、「地球よし」などを加えた「四方よし」とも言います。読者の皆さんにとっての4つ目のよしとはなんでしょうか。

 それは、現代の社会的課題の解決にも繋がる糸口にもなるかもしれません。

 もちろん、都会の生活に十分満足していて、なんのトラブルも感じていない、という人もいると思います。私は、そういう人たちを無理矢理にでも「トカイナカヴィレッジ構想」に参加させようとは思っていません。

 でも、将来、なにかあったとき、食べる人である自分に、作る人についての知識や思いが頭の片隅にでも入っていれば、それは解決策のきっかけになるかもしれません。

 その意味で、幼い頃、若い頃に、そうした原体験を持っておくことは有意義だと思います。

 もちろん、それは「トカイナカヴィレッジ構想」に限りません。近所の貸し農園で農作業をしてみることでも、直売所で採れたての野菜を買って食べてみることでも良いと思います。

 大切なのは、自分の視野を広げることなく一方に偏り、他方を排除するようなことにならないことです。それが無意識であっても、他者を傷つけたり、自分自身も傷つくことになったりします。

 なにより、偏ることは窮屈です。それより、中庸の楽しさ、生きやすさを知るには、複眼的思考を育む原体験をしておくことだと思っています。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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