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里山の生物多様性を持続させるために必要なことは

倉本 宣 倉本 宣 明治大学 農学部 教授

雑木林を楽しむことも、資源の活用

 要は、もともとの自然だけが大事なわけではないし、周囲の環境に与える影響を考えずに人が手を加えることも決して良いことではないのです。そのバランスは、私は配置と面積の問題と考えています。

 山の向こうは、草原であった方が良いのかもしれません。でも、さらにその奥は原生林であった方が良いでしょう。また、都市の近くの林は、人の手が入った雑木林の方が良いのです。行政には、その配置と面積のバランスを考えた環境計画を立てていくことが求められるのです。

 一方、私たち市民は、とにかく木を伐ってはダメという姿勢を少し変えてみましょう。

 私たちは、本学の黒川農場において、学生だけでなく一般の人たちにも雑木林の活動に参加し、生物多様性を体験的に理解していただく取り組みを考えています。

 環境収容力には限りがあるので、だれでも自由に農場の雑木林に入れるようにすることはできませんが、例えば、黒川農場がある川崎市の海辺の子どもたちに、同じ市内で里山の生きものにふれることができる環境があることを知ってもらうのは、子どもたちにも川崎市にとっても有意義なことだと考えています。

 そうした環境をこれからも維持していくためには、植生管理が必要なことを知ってもらえればうれしいです。それは、物質循環や自然の大きなサイクルを学ぶことにも繋がっていくと思います。

 また、木の伐採を受け入れる雰囲気を社会に広めるためには、伐採した木を資源として活用できる社会を構築していくことが必要だと考えています。

 もちろん、江戸時代のように、木を薪や炭などのエネルギー源として利用することは現実的ではありませんし、チップにして燃やし、発電するのも費用対効果を考えれば、効率的とは言えません。

 そこで、いま考えているのは、「楽しむ」ことです。伐採した木で木工を楽しんだり、そもそも、伐採に参加するのも楽しいと思います。特に、切り株のひこばえを育てることは心ときめく夢のある管理です。

 雑木林を若返らせることも、そこに生きる植物や動物にふれることも、きっと楽しい体験になると思います。それはお金に換えられない体験です。

 身近にある雑木林から、新しい発見や、面白いと思うこと、びっくりすることを感じるのは、そこに自然と人の営みがあるからです。

 それを「楽しむ」ことが、雑木林のような「人手の入った自然」をこれからも残していくことに繋がると思っています。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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