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みんなで対話し、地域の未来を選択する

巡回販売の様子
           【巡回販売の様子】

 農的な暮らしの特徴は、丁寧さにあると思います。農業用水路や灌漑施設の維持管理をきめ細かく行っていたり、農地ではない路肩の草刈りまで自主的に行う文化があります。日本の農村の美しさを創っているのは住民です。

 五ヶ瀬町で直売所ができてよくわかりました。みんな手作りのものが良いのです。同じ地域のなかで暮らしを共にして、顔の見える関係がやっぱり良い、信頼できると言うのです。

 直売所はいつもにぎやかです。コロナ禍の2020年4月~6月でも、それぞれ前年比で、100万円程度プラスの売り上げになったと聞いています。

 この直売所では、生産者と消費者という区分けではなく、作った人が買って帰る。みんながひとつの地域共同体の生活者として世界観を共有しながら、農的な営みを重ねあい、その地域の経済主体ともなっているわけです。

 これはとても小さな経済です。でも、この地域にとっての身の丈に合った、ちょうど良い、あたたかい経済なのです。

 これが豊かさだと思います。

 こうした取り組みが地域の力に繋がっていくには時間がかかります。30年くらいの時間をかけるとよいと思います。30年の時間をかけて丁寧なまちづくりを行い、それをまた次の30年に受け渡していく、そのような長期的なサイクルで考えると、きっと上手くいきます。

 時間をかけてどのような力を地域は貯めているのか。それは、その地域に暮らす住民が理想を描き、現状を分析して、未来の理想と現在の状況とのギャップ(あいだ)をどう埋めるか、それをみんなで対話し、一つひとつ選択していく、そういった底力です。

 私たちにできるのは、その地域で生きる豊かさや幸せを考え直すきっかけをつくり、未来にむかって実際に話し合う対話の場をつくることです。

 この試みを私たちは、「未来会議」と呼んでいます。

 私たちがたずさわる五ヶ瀬町では、廃校になった中学校跡に、その場を設けました。地元の林産材で造られたキャンパスには、その土地に暮らした過去の住民の思いも蓄積されています。過去を受け止め、未来を展望するのにふさわしい場所です。なつかしい場所ですから多くの人が集まります。それに中学校に行けるのは中学生だけですが、「まちづくりの学校」には、だれが来ても、何をしにきてもいいのです。

 よいまちづくりとは、そこに暮らす一人ひとりが「よく生きる」、豊かに生きる、丁寧に生きる、生き生きと生きることなのですから。

 こうした具体的な場で行われる対話では、地域の豊かな未来のイメージが生み出され、その地域が本来もっている魅力を未来志向で活かすアイデアが生まれます。そのアイデアを生み出すのは、いつも、住民たちの自由かつ大胆な発案です。その地域の未来は、そこに暮らす人びとの想像によって実現します。わくわくしませんか。発想が弾けて、未来のイメージが大きく共有される瞬間に立ち会える喜びをまた求めて、ドキドキしながら通ってしまうんです。

 研究室で考えていると悲観的になりがちですが、「未来会議」に行くといつも明るくなる。なんとかなる気がする。やっぱり農村には「なにか」あるんですよね。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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