企業向け地震保険は、中小企業にとっては負担が大きい
リスクマネジメントといえば、保険を思い浮かべる人が多いでしょう。実際、地震保険に加入している人も多いかと思います。実は、家計向けの地震保険は、ノーロス・ノープロフィットの原則に基づいて、利益も損失も出ないように運営されていて、企業向けの地震保険に比べれば、保険料が安いという面があるのです。ただし、保険金には限度が定められており、被害のすべてを補償するわけではありません。つまり、地震保険で支払われる保険金は、地震によって損害を受けた建物・家財をもとに戻すためではなく、生活を再建していくきっかけの資金としての性格が強いのです。また、支払額が数兆円に達する場合は、政府が大部分の保険金を支払う仕組みになっています。すなわち、家計向けの地震保険は、公的な保険としての性格を有しているのです。これによって多くの人が加入でき、有効なリスクマネジメントの手段になっているわけです。それに対して、企業向けの地震保険(地震危険補償特約として、火災保険の特約として契約することが一般的)には政府の支援はありません。保険会社は保険金の支払いが巨額になることを警戒して、地震保険の引き受けに二の足を踏むこともあります。実際、東日本大震災直後は、地震保険の新規引き受けの一部を停止しましたし、筆者の行った調査でも、地震保険に加入しようとした中小企業のうち約3割の企業が、保険の引き受けを断られたと回答しています。つまり、企業向けの地震保険は、保険会社の商品として売られているので、加入を希望しても加入できないことがあります。また、保険料が高くなれば、加入できたとしても、特に、中小企業にとってはその負担は大きくなってしまうのです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。