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精神鑑定は犯人救済のために行うのではない

明治大学 文学部 教授 高瀬 由嗣

憎しみの感情に任せた厳罰要求は正しいとはいえない

 さらに、注意していただきたいのは、精神鑑定の専門家チームが、仮に、責任は問えないという鑑定結果を出したとしても、それを採用するのは裁判官であるということです。その典型的な例として、1968年に起こった「永山則夫事件」があります。当時19才だった永山則夫が、アメリカ海軍基地から盗んだ拳銃で、4人を射殺した事件です。丹念な精神鑑定が行われ、劣悪な成育環境によってもたらされたPTSD(心的外傷後ストレス障害)を日本で初めて指摘したといわれる鑑定書が提出されました。しかし、この鑑定書は、一審ではほぼ顧みられず死刑判決が出されました。その後の控訴審ではこの鑑定書に記述された被告の過酷な生い立ちが判断材料の一つとなり、無期刑へと減刑されました。ところが、上告審に至ると、一審と同じように鑑定書が活かされることはなく、死刑が確定したのです。事件に対する見解が人によって異なるということは十分にあり得ることですが、それが、厳罰を求める社会の声に影響されていたのだとしたら、恐ろしいことです。例えば、1999年に起きた「山口県光市母子殺害事件」では、人権派といわれる弁護士たちが、加害者の少年の責任能力が問えないことを訴える法廷戦術を展開したことに対して、社会から厳しい批判が出ました。それとともに、当時テレビに多く出演していた1人の弁護士が、テレビ番組中に、この弁護団に対する懲戒請求を視聴者に呼びかけたところ、それに呼応して約7000通もの懲戒請求書が集まったといいます。裁判は、一、二審は無期懲役判決でしたが、差し戻し控訴審で死刑判決が出されました。弁護団の法廷戦術が正しかったのかは、人によって意見が分れるところでしょう。しかし、事件の背景をよく知らない人が、その場の感情に任せて弁護団を糾弾したり、加害者に厳罰を要求するという姿勢は、正しい態度とはいえないと思います。本当に、加害者が責任を問えないような状態であったとすれば、被害者の遺族には非常に辛いことですが、この事実を受け入れていかなければならないし、そのための支援やサポートをしていくことが重要であると、考えます。

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