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ダイバーシティの根幹に触れるヒューマンライブラリーの取組み

横田 雅弘 横田 雅弘 明治大学 国際日本学部 教授

マイノリティって、不自然?

 北欧の福祉社会の中には、こんな考え方があります。脚が悪くて車いすを使っている人が社会で活動しようとすると、段差があるところに車いす用のスロープが必用になります。しかし、車いす用のスロープを造っても、それを利用するのは全体から見ればごくわずかな人(マイノリティ)です。では、車いす用のスロープを造ることは無駄なのか。それを造る予算は大多数の人たち(マジョリティ)のために使うべきなのか。しかし、車いすを使う人が1人もいない社会や街があるでしょうか。そんな社会や街があったら、その方が余程奇妙ではないのか。車いすを使う人がいることの方が「自然」であるとすれば、その「自然」に適した街づくりをすることが当然ではないか。つまり、利用する人が多いから施設を造るのではなく、当然そうなるであろう状況に適した施設を設計することが街づくりの前提である、というノーマリゼーション(福祉環境づくり)といわれる考え方です。この考え方は、福祉ということに限らず、多様な人々が暮らす街づくりとして、基本的な考え方であるといえます。

 ところで、何をもってその人はマイノリティといえるのでしょうか。車椅子の人は、そのことではマイノリティかもしれませんが、それ以外の面はマジョリティかもしれません。どこかの一面を捉えて決めつけても、それがその人のすべてではありません。誰もがどこかはマイノリティであり、どこかはマジョリティである。それが人間です。しかし、いま、多くの人がすべての面でマジョリティであることを装って生きています。マイノリティだとわかると、暮らしにくかったり、生きにくかったりするからです。しかし、そうやってマジョリティを装って生きていくことは、自分らしい生き方とはいえません。社会には多様な人がいることが自然なのに、それを隠さないと生きづらいということは、その社会の方が不自然だということではないでしょうか。

ダイバーシティを企業の活力に活かすために

 最近、多様性(ダイバーシティ)が活力を生み出すと考える企業が増えてきました。社員一人ひとりが自分らしくあって良い。あなたがあなたであることで、最大限の力を発揮して欲しい、という会社であったら、社員はイキイキと働けそうです。企業がダイバーシティのために投資するということは、企業にそういう活動をすることが求められてきたのでやる、ということではなく、社員一人ひとりの“らしさ”を認めるという社風が、社員にプライドをもたらし、それが活力になっていくということです。「互いが認められる社会は健全で活力がある」ということです。それを学ぶ機会として、ヒューマンライブラリーは非常に有効だと考えています。

 実は、本学のヒューマンライブラリーの読者として、社員を研修のために派遣したいという大手企業からの問合せがありました。私たちはヒューマンライブラリーを公開で行っています。ぜひお越しいただき、ダイバーシティの根幹に触れる体験をしていただきたいと思っています。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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