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ダイバーシティの根幹に触れるヒューマンライブラリーの取組み

横田 雅弘 横田 雅弘 明治大学 国際日本学部 教授

自分の深いところが直接揺さぶられる「ヒューマンライブラリー」の体験

ヒューマンライブラリーの様子ヒューマンライブラリーの様子 2008年、「ヒューマンライブラリー」のことを知り、私は衝撃を受けました。それは、一人の人を「本」と見立て、読者に30分間貸し出され、一対一で「本」の貴重な経験を聞くことができるという、「人を貸し出す図書館」というイベントでした。ゼミの学生たちにもちかけると、大変な議論となりましたが、やってみようということになりました。以来、ほぼ毎年11月終わり頃の日曜日に実施し、第8回となる2016年には、34人の人が「本」となり、読者は300人以上集まりました。開催は本学の中野キャンパス一棟をまるまる使うかたちで、「本」の人たちが一人ひとり待機し、読者と一対一で話す個室のほか、義足体験コーナー、幻聴妄想カルタ体験コーナー、障害者プロレスの選手の公開スパーリングなど、様々なイベントを行いました。ヒューマンライブラリーは世界70ヵ国以上で行われており、国内では、本学のほかにもいくつかの大学や図書館、福祉協議会などが主催し、過去におよそ50回程度は開催されていると思いますが、本学のヒューマンライブラリーが国内では最大規模です。

 準備から運営まで、すべて横田ゼミの学生が行います。「本」となってもらう人たちと何度も会合を重ね、理解を深めることから始まり、地元企業や商店を回って説明し、理解を得ることまで。その結果、いまではファンドレイジングをはじめとした、様々なかたちの協力をしてもらえるようになりました。こうした活動を通して、学生たちは大きく成長します。「人間は多様で良いのだ」ということを率直に理解したり、例えば、「この人は可哀想な人だと思っていたが、とんでもない。自分だったら耐えられないと思うような経験も受入れ、前を向いて生きている。この人はなんて強いのだろう。人間て、すごい」という真摯な思いを抱くものも少なくありません。いま、アクティブラーニングが盛んにいわれていますが、私は、アクティブラーニングの最も重要なところは、“自我関与の高い”体験であると考えています。例えば、本を読んでも魂が揺さぶられるような感動はありますが、目の前の事柄を自らの五感を通して体験することで、本当に自分の深いところが直接揺さぶられるような体験となるのです。

 成長するのは学生だけではありません。こういうイベントで、「本」となって自分の人生を話すことはすごいことだと思いますが、「本」になってくれたほとんどの人が、また来年も「本」になりたいと言ってくれます。読者の人の中には、九州から飛行機でやって来るという人もいます。9割を超える人たちが、来年もまた来たいといいます。自分とは異なる人に対する偏見を完全にゼロにすることは難しいと思います。しかし、理解してもらおう、理解しよう、という関係が少しでも増えてくれば、それは人と人が信頼し合える環境につながっていくものだと思います。

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