現代にも生きる「いりあい」「よりあい」の精神
いま、私たちの活動のひとつにインドネシアのバリ島があります。日本人には観光地として有名な島ですが、この島の西側に「西部バリ国立公園」があります。この地域の森にはバリ島内でも貴重な手つかずの自然が残っていて、生物多様性保全の観点から、インドネシア政府は1984年、この地域を国立公園として保護することを決めました。ところが、この公園の周辺には国立公園ができる以前から村落があり、人々は薪にするために森の木を採ったり、家畜のエサにするために草を刈って暮らしてきました。村の人々にとって周辺の自然は、生活のための森だったのです。しかし、国立公園を管理する公園職員はそれを阻止しようとするため、住民と敵対関係になってしまいました。2008年、私たち「あいあいネット」は、国立公園と周辺の村との「共存・協働関係構築」を目指して活動を開始し、「村人と対等なパートナーシップ関係を創ること」や「“村にあるもの”を活用して課題解決の方法を考える」といったことを、ワークショップや現場での研修を通じて公園職員のチームに学んでもらいました。すると、2010年の夏、当時の公園所長が「カンムリシロムクの人工繁殖に村人も参加してもらえないか」という思いを抱いたのです。カンムリシロムクとはバリ島固有種の鳥で、絶滅の危機に瀕していたため、公園では飼育下繁殖に取組んでいました。公園側の思いは村人にも伝わり、飼育下繁殖のグループが結成されました。それまではカンムリシロムクを密猟する村のようにみなされていたのが、「自然環境保全に取り組む村」として多くの人に注目され、村人はプライドをもつことができ、さらに観光客にアピールするために、村内のゴミの撤去やリサイクル、エコツアーの観光資源の掘り起こしなど、その活動は広がっていきました。
同じような取組みは日本にもあり、兵庫県豊岡市ではコウノトリ、新潟県の佐渡ではトキの飼育と繁殖に取組んでいます。いずれの地でも、ただ繁殖させて放鳥するだけではなく、一時は絶滅してしまった鳥たちが野で暮らしていけるように、農地はできるだけ無農薬にする、里山を整備し守る、ビオトーブを造るなどの活動を通して、自然環境の改善に市民の皆さんが自主的に関わっています。バリ島の例と同じように、こうした活動が人々の注目を集め、それが観光資源となり経済的な利益に結び付くという側面はありますが、それ以上に、苦労をともなう活動なのに、実は“楽しい”ということが関わる大きな理由だと思います。無い物ねだりをするのではなく、自分たちの地域にある資源を、みんなで管理し守ることによって多くの人たちとのつながりが生まれ、また、そこに自治の意識が芽生えます。こうした活動に取組むことは楽しいし、やっていると誇りをもてるのです。「いりあい」「よりあい」にも通じるこうした活動が、地域コミュニティの基盤となるのです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。