特定技能2号の対象拡大
特定技能2号の拡大は、これまでの外国人技能実習制度の廃止とセットになる可能性が高いと考えられます。
もともと技能実習制度は国際貢献としての「途上国への技術移転」を目的に始まりましたが、第一には低賃金や時間外労働といった問題が続出するなど実態と乖離し、第二には期間限定でしか働くことができない(滞在期間の更新不可)ため、労使双方のニーズからかけ離れていました。
一方、特定技能は2019年に新設された在留資格で、介護やビルクリーニングなど人手不足とされる業種への外国人の就労を促しています。1号は在留期間が5年で家族の帯同はできませんが、より熟練技能が求められる2号になると在留期間の更新上限がなく家族帯同も認められます。つまり、条件を満たせば半永久的に日本にいられるという仕組みです。
技能実習から特定技能へのシフトから垣間見えるのは、海外から人材をより広く受け入れ、比較的長い期間日本で働いてもらい、条件を満たせば永住権を与えるという日本政府の基本的な考えです。政府は「移民」ではないと強調しますが、事実上の移民政策の一種であることは明らかです。
現実問題として、高度外国人材の受け入れ自体は、超高齢社会である日本が国際競争力を持つ意味でやはり必要不可欠な政策でしょう。しかしながら本来、より重点的に議論されるべきは、今の日本社会で果たして、外国につながる彼・彼女たちがコミュニティの一員として受け入れられるかという論点ではないでしょうか。
私には、日本政府の「外国人政策」では労働力の担保ばかりが要請されていて、実際に彼・彼女たちが生活する場面、つまりコミュニティにおける外国人の現実的課題の解決や、日本社会における様々な困難の解消といった議論が、すっぽりと抜け落ちているように感じられます。
一言で外国人労働者といっても、日本とは別の国・地域から来ている彼・彼女らは、文化や慣習の違いに直面します。たとえば、社会における女性の立場はどうでしょうか。
世界経済フォーラムが発表しているジェンダー・ギャップ指数の2023年版において、日本は146カ国中で125位となっており、とりわけ「政治」と「経済」への参画において男女平等の度合いは極めて低い水準にあります。
事実、「日本は女性が働きにくい国である」という実感は、私が研究している元留学生の中国人女性を対象にしたライフキャリアの調査分析や、あるいはゼミに在籍する留学生たちの話でも必ずというほど出てくる意見です。
より女性が男性と対等に扱われる国や地域から日本へやってくる場合、彼女たちにとって、日本国内(日本企業)で働く場合、ギャップはさらに大きく感じられるでしょう。結果として、自分の能力を発揮できる職場環境とはならず、子育てと両立できないために職場に定着できず、やむなく帰国せざるを得ないということは十分に考えられます。
あるいは、来日当初は技能実習生だった若者が、特定技能1号に切り替え、その後に2号へとステップを踏み、永住権取得を目指すケースはどうでしょうか。最低でも10年以上はかかりますので、当人もそれなりの年齢を重ねて家族をつくれば、生まれた子どもは日本で育てていくことになります。
しかし、現状ではそうした子どもたちの受け入れの準備は十分ではありません。ただでさえ日本の公立学校で教員不足が叫ばれるなか、外国につながる子どもの場合は家庭内で日本語以外を話すことも多く、言語的なビハインドが起こる可能性があります。しかし、これを教育現場でケアする対策は出遅れていると言わざるを得ないのです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。