食に関する知識が広がれば、食料問題は解決に向けて大きく前進する
食料問題の解決に速攻性のある特効薬のような策はおそらくありません。さまざまな戦略を総動員して同時並行で進めていかないと、うまくいかないでしょう。和食の普及などだけでなく総合的なアプローチで向かっていく必要があります。
これから先、食育が今まで以上に重要になると考えています。食について、単なる美食や栄養補給という観点ではなく、環境問題も含めた大きな枠で捉える意識を、幼少期から育んでいくことが大切でしょう。私たちはおいしいものや好きなものを食べたくなりますが、京都大学名誉教授の伏木亨先生は「人間は脳で食べている」と表現されています。何を食べるにしても、その食べものに関する知識があれば、おいしく味わえるという意味です。それぞれの食材の持つ優れた栄養価や地球規模のメリットなど、食に関する幅広い知識が食育を通して一般にも広まっていくと、エシカルに考えることができるようになり、トータルで変わっていくと期待しています。
身近なところからも対策は可能です。「今日はお肉を控え、植物性のものだけ食べよう」といった“ゆるベジ”の人(フレキシタリアン=柔軟な菜食主義者)が増えれば、無理なく地球全体での肉の消費量を抑えられるはず。肉の消費を適度に抑え、畜産でエサとして使っている穀物を人が確保して料理していけば、食料問題は解決に向かうだろうと思われます。
近年、注目されている培養肉は、今のところ生産コストが合わず、実用化はまだまだ先になるでしょう。ただし、動物の生命を奪わないので、動物福祉の面からも期待が寄せられている手法です。しかもコアとなる細胞を得てしまえば無菌状態で培養でき、細菌やウイルスが入ることもないので、生で食べることもできます。私たちはだいたい柔らかくてしっとりとした生ものが好きなのです。日本人であれば魚介類ですが、欧米人であればレアの肉を好む人も多いため、低コストで培養肉が生肉として安心して食べられるようになれば、大きな需要を生むでしょう。
食料問題の解決に向けては、フードシステムの改善も不可欠です。フードシステムとは、生産、流通、小売り、そして私たちの口に入るまで、食料供給の一連の流れを指します。料理で考えると、どう調理しておいしく食べるかに目が向きがちですが、各プロセスにある問題について改めていく努力が欠かせません。そして何より、フードシステムの最終地点である個々人が食に関するさまざまな知識を得て、食料問題や地球環境にも配慮して食を選べるという、エシカル消費ができる世の中にしていくことです。そのために今後も、食の問題をいろいろな観点から検討し、自分が正しいと捉えているものを伝えていきたいと考えています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。