和食から発想を得て、欧米の人々も満足できるメニューを開発
和食は、使われている食材に食料問題を解決するヒントがあります。一つは、魚です。日本人が先進国のなかでも肉を食べ過ぎていないのは、魚の摂取量が多いからでしょう。いわゆる青魚のほか、カツオやマグロなどの赤身魚には、食欲を抑制するヒスチジンというアミノ酸が多く含まれています。しかもこのヒスチジンは脂質代謝も促進させます。魚を食べると頭が良くなるというフレーズが一時期流行りましたが、魚を食べると少量で満足感が得られ、太りにくくなるのです。
とはいえ、日本で安心しておいしい魚が食べられるのは、新鮮な魚を流通させるインフラが整い、それらを扱う技術も高いことが背景にあります。鮮度が落ちた魚では、微生物によってヒスチジンがヒスタミンに変化してしまっていることがあるからです。ヒスタミンは食中毒の原因になりますから、鮮度には注意しなければなりません。刺身のほか、寿司なども国際的に人気がありますが、魚を生でこれほどまで食べているのは日本だけです。加えて天然の魚には漁獲量に限りがあり、増加していく世界人口に対応しきれないでしょう。養殖に関しても課題が山積しているようです。
例えば日本でも養殖されているクロマグロやサーモンは、欧米でも好まれる魚ですが、現場の方々にお話を伺ったところ、かなり障壁が多いようです。クロマグロはとても「グルメ」で気に入ったものしか食べず、しかも大変な大食漢。ずっと泳ぎ続けなければ死んでしまうという性質もあり、エサとして与えたものが効率よく身になってくれません。その結果、生産コストがかかってしまいます。サーモンはクロマグロより効率はかなりいいものの、水やエサの匂いがそのまま身についてしまう上に、水温が高くなるといけないのでそれらのコントロールが大変のようです。
和食の代表的な食材がもう一つあります。それは大豆です。私は、この食材に大きな期待を寄せています。豆腐や納豆、味噌や醤油の原料でもありますが、大豆はタンパク質の量と質がともに良く、栄養価が高い。しかも肉にはない食物繊維も含むヘルシーな食材です。イソフラボンという女性ホルモン様の効果を示す成分も含まれており、これが日本人の乳がんや前立腺がんの抑制に貢献しているようです。
大豆の栽培では、窒素系の肥料を与える必要があまりないというのも大きな利点です。肥料を過剰に与えると河川にも流出するので、環境問題にもつながるからです。しかし大豆は、根に寄生している根粒菌という細菌が空中窒素を固定してくれるのです。まさに、人にも地球にも優しい食材です。
しかしながら欧米では大豆を直接食べる習慣がほとんどありません。アメリカでは家畜のエサに回されるのが普通で、食材と見なされていない傾向にあります。そこで私は学生たちと、大豆を原料に和食の調理技術も取り入れて、欧米人でもおいしいと感じられるメニューの開発に取り組んでいます。植物肉なども同様な理由で注目され始めていますが、おいしいメニューのレシピはまだ少ないので、満足度の高いものを生み出して発表すれば、食料問題解決の一助となるはずです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。