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2025.11.14

【戦後80年】秘密戦を語り継ぐ“明治大学平和教育登戸研究所資料館”で戦争の真実をたどる〈資料館潜入!レポート編〉

特集
【戦後80年】秘密戦を語り継ぐ“明治大学平和教育登戸研究所資料館”で戦争の真実をたどる〈資料館潜入!レポート編〉
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◆第5展示室:敗戦とその後の登戸研究所高校生たちの熱意によって、徐々に明らかになっていった登戸研究所の真実

第5展示室では、戦争終盤から敗戦、そして現代の資料館へと至る、登戸研究所の歩みを紹介しています。

1944年7月、サイパン島の日本軍が全滅したことによって、米軍の日本上陸が危ぶまれ、敗戦の予測が出てきます。しかし日本の軍部は最後の一国民まで戦う本土決戦構想を立て、海から最も離れている長野県の松代への首都機能移転を計画。巨大な地下壕をつくり、政府やNHK、軍の大本営や皇居、三種の神器も移す予定でした。

その流れを受けて1945年5月、登戸研究所も長野県の上伊那地方に移転し、手投げ弾や缶詰爆弾などの製造を命じられます。新しい工場を建てる余裕もないので、地元の小学校を接収し、地元の未成人たちを動員して爆弾をつくっていきました。

結局、本土決戦とはならずに終戦を迎え、登戸研究所には徹底的な証拠隠滅が命じられます。そのためすべては燃やされ壊され、登戸研究所での出来事は、謎に包まれることになりました。

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写真:木下健蔵氏提供。1945年10月、GHQが長野県へ接収に来た際に撮られたという写真では、なぜか日本人も米兵も笑顔を浮かべている。実は登戸研究所の技術を自分たちのものにしようと目論んでいた米軍が上層部と裏取引を交わし、協力を条件に、登戸研究所の関係者は誰も戦犯にはならず免責されたという

しかし昭和が終わった1989年、川崎市の法政大学第二高等学校と長野県赤穂高等学校の高校生たちがそれぞれ、文化祭で登戸研究所について発表しようと、先生たちと一緒に調査活動を始めます。当時について知ろうと登戸研究所の関係者のもとを訪ねても、最初は「話したくないから帰れ」と追い返されますが、それでも彼らはめげません。たとえばカボチャづくりの名人として知られる方との信頼関係を築くため、まずは作り方を教わろうと何度も通い続けたのだといいます。すると「今まで誰にも話したくなかったけれども、君たち高校生になら話してもいい」と少しずつ語ってくれるように。徐々に証言や資料が集まり始め、やがて要望の声が上がり、明治大学平和教育登戸研究所資料館の開設へとつながっていきました。

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高校生たちの取り組みに先駆け、川崎市教育委員会が中心となった市民活動でも聞き取りやアンケート調査が進められ、「雑書綴」の存在が明らかになった

◆スタッフの声意を決して語ってくださったお話を、そのまま伝え継ぎたい

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明治大学平和教育登戸研究所資料館 総務部 生田キャンパス課 塚本百合子さん

戦後80年でもある2025年は、歴代1位の来館者数を更新しています。作家の小林エリカさんが前年、毎日出版文化賞をとられた『女の子たち風船爆弾をつくる』という小説で当館の取り組みを紹介してくださったことなどから若い来館者も増え、より多くの方に知っていただけるようになりました。

多くの戦争資料館とは異なり、当館は戦争の加害面を伝えているのが特殊です。登戸研究所では非人道的な研究も行われましたが、決して彼らがマッドサイエティストだったわけでも悪い人間だったわけでもありません。戦争下に置かれれば誰もがそうなってしまうおそれがある。自分が同じ立場だったらどうでしょう。そういった視点から戦争と平和について考えるためにも、さまざまな真実を知っていく必要があると思います。

来館者のなかには、「今まで家族にも話していなかったけれど、この資料館に来たら自分がやっていたことが全部公表されているから、もう話してもいいんだとほっとした」と話してくださる方が何人もいらっしゃいました。懐かしい気持ちになって、当時のことを話してくださるうちに、だんだん心が軽くなっていったと。語ってくださった内容はできる限りまとめ、当館のホームページにも掲載している館報や、毎年開催している企画展などで紹介しています。

資料館ができなければ出会えなかった人々、わからないままだった歴史も多く、この場所がもつ力をひしひしと感じています。大切なバトンを受け継いだので、必ず次につないでいきたい。それも都合よく切り取らず、皆さんにもそのままお伝えしていきたいです。

明治大学平和教育登戸研究所資料館について
―詳細・最新情報はかならず資料館HPでご確認ください―

場所:神奈川県川崎市多摩区東三田1-1-1 明治大学生田キャンパス内
入館料無料・予約不要
開館曜日時間:水曜~土曜 10:00~16:00 開館スケジュールはこちら
※明治大学の夏季・冬季休業期間、7月・1月の定期試験期間及び12月~2月の入試実施に伴う入構制限期間等は、大学の事情により閉館することがあります。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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