
M&Aの大型案件が相次ぎ、海外投資家の存在感が高まるいま、日本企業のガバナンスは大きな転換点に立っています。セブン&アイの買収提案、日産とホンダの統合交渉など、経営判断の質そのものが問われる事例も増えました。世界標準と言われる「モニタリングモデル」と日本型企業統治の差はどこにあるのか。会社法の視点から、現状と課題を探ります。
コーポレートガバナンスの「世界基準」とは?
上場企業のコーポレートガバナンスのあり方については現在、日本の会社法上、三つの経営機構の選択肢が用意されています(詳細は後ほど触れます)。しかし、日本の伝統的な企業統治制度と、欧米でいわゆる「グローバルスタンダード」とされる経営機構との間には、構造的にも理念的にも大きな隔たりがあると考えられています。
とりわけ、アメリカ型の「モニタリングモデル」では、社外取締役を中心とした取締役会が代表取締役らを監督する役割を担います。取締役会が合議によって経営判断を行うというよりも、むしろ経営陣が適切に意思決定しているかどうかを監視するという仕組みです。一方で海外投資家を中心に、日本企業はこの監督機能が十分に発揮されていないとの指摘があり、その立て直しは積年の課題となっています。
近年では、とくに大企業の合併や買収に関連して、コーポレートガバナンスのあり方が問われる事例が目立ちます。たとえば、日産自動車とホンダは2024年12月に経営統合に向けた基本合意を交わしましたが、翌2025年2月に協議を終了し、破談となりました。背景には、日産の経営改善を加速させる目的でホンダが完全子会社化を提案したものの、日産側が経営の独立性を重視して拒否したという構図があったとされています。
このような場面で改めて問われるのは、「株式会社はいったい誰のものか」という根本的な問いです。株主のためのものか、経営者のものか、それとも従業員、取引先、顧客・消費者といったより広範なステークホルダーのためのものか。日本企業はこの問いに対して明確な答えを出せずにいる様子があります。
たとえば、従業員の雇用を守るために採算の取れない形態を維持したとしても、それが原因で企業自体が倒産してしまえば、そもそも従業員も株主も取引先も顧客もすべて損失を被ることになります。日本企業が抱えるジレンマは、まさにこうした多様な利害をどう調整すべきかという点にあるのです。
だからこそ、取締役会を中心とし、独立した社外取締役が経営の現状を客観的に評価し、必要な改革を促す「グローバルスタンダード」の仕組みが求められているとも言えるでしょう。しかしながら、日本では依然として、社長や副社長、専務、常務など、経営実務を担う者たちが取締役会を構成するケースが多く、実質的に「経営会議」と化している場合があります。
これに対し、モニタリングモデルが浸透しているアメリカやイギリスの上場企業では、取締役のうち独立社外取締役が占める割合は9割前後に達しています。英米企業における独立社外取締役は、経営からは距離を置きつつも十分な知見をもって監督・助言を行い、経営目標の達成が見込めない場合は経営陣の交代を含めた議論を喚起するのが一般的です。
日産とホンダの統合交渉においても、両社には一定数の独立社外取締役が存在しました。しかし、その機能が十分に果たされていたのかどうかについては、今後検証が必要だと考えられます。日本の取締役会が真に「経営の監督機関」として機能するには、形式的な制度設計にとどまらず、実質的な運用をどう確立するかが問われているのです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
