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旅行添乗員時代に学んだ技術:まずは「行動予定表」を作る!
2025.05.28

学びを加速させるアドバイス旅行添乗員時代に学んだ技術:まずは「行動予定表」を作る!

リレーコラム
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教授陣によるリレーコラム/学びを加速させるアドバイス【1】

私には、大学院を修了した後、旅行会社で海外団体旅行の添乗員をしていた時期があります。

実は、旅行会社に就職するまで、海外旅行に行ったことがなく、添乗に備えて初めてパスポートを取得したのでした。初回の添乗は補佐として従事し、2回目以降は1人で団体を引率しました。はじめて訪れる海外の諸都市に、たった1人でグループのお客さんを引率していく状況でした。

行き先は、アジアよりも欧州各国が多かったです。毎回訪れる都市が異なったため、往路の機内で、1冊あるいは2、3冊の現地旅行ガイドブックを必死に読み込んでいた記憶があります。幸いにも、訪問先の各都市では専門の現地ガイドさんが同行したため、詳細な観光案内はお任せできました。

海外添乗と海外旅行ともに初心者の私であっても、毎回の添乗業務を無事に終えられた理由は、当時の上司からいただいた助言にあります。それは、起床時間から始まり、空港への集合時間、午前中の移動やアクティビティ、昼食の時間や場所、午後の行動内容、夕食場所への移動、宿泊先の場所や連絡先、緊急事態発生時の対応手順など、毎日の行動予定表を出発前にすべて書き出し、ファイルに綴じ込んで添乗業務時に常に携帯するようにというものでした。

その上司は、海外添乗回数100回を超えるベテランであり、助言はとても心強く、実際の業務でこの教えは大活躍しました。行動予定表の考え方は、大学で教員になってからの研究や現地調査にも活かされています。今でも、海外調査する際には、行動予定表ファイルを忠実に作成しているほどです。

行動予定表の本質は、まずは全体像(テーマ)を把握することにあります。行動予定表に記載した内容と実際の出来事との間に多少の齟齬や不十分さがあったとしても、全体像を捉えさえしていれば、要点を外すことはありません。

同じように、研究においても、荒くてもよいので、最初に全体像を作成しておきます。ですが、添乗業務よりも、研究における全体像の作成には時間がかかるものです。研究テーマが、毎回、初めてのものであるということもありますが、先行研究や参考文献、資料などが海外旅行ガイドブックとは比較にならないほど高質で多量なためです。

私の場合、たとえ荒削りであったとしても、日々の行程に相当する1つ1つの研究対象としての現象を分析したうえで総合して全体像を作成していきます。旅行の行程に物語性があるように、分析した現象相互の関係を明らかにし、それらを全体に位置づけし直していくのです。

現象から深堀して、その現象をもたらしている実体を介して、現象を生じさせている本質を突き止めていきます。そして最後に、本質から実体を経由して現象に至るまでの過程的構造が正確に全体像と合致するのかを確認します。

旅行の行動予定表も研究の全体像も頭の中で考えた観念であり、その観念が現実や現象と一致しているかの確認が共通する点であると思います。さらに、途中で緊急事態に遭遇する可能性を事前に考慮する必要性も両者に共通しているでしょう。

そういえば、トラベル(旅行)の語源はトラベイル(苦労)だとも上司から教えられました。旅行は苦労だが、顧客にはできるだけ苦労を感じさせないようにする使命が添乗員にはあると私は理解しました。研究も苦労だが、苦労を感じさせないようにする使命が教員にはあると、今は捉え返しています。

飛行機のように高速で移動する交通手段ほど、窓から見える外の景色は瞬時に通り過ぎます。対して、ローカル列車のように移動速度が遅い交通手段ほど、車窓の景色を堪能できます。

私は、海外旅行に行くとき、高速と低速の交通手段を旅行のテーマに合わせて選択し移動しています。研究の場合も、時流を追いかけていく研究と古典を踏まえながら時間をかけて行う研究とがあるように。個人的には、研究の全体像(テーマ)に応じて、両者を適宜使い分けていくことが肝要と考えています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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