学びを加速させるアドバイス学びを深めてくれるのは、没入と俯瞰を行き来する視点
教授陣によるリレーコラム/学びを加速させるアドバイス【39】
世界はさまざまな物語にあふれています。学びを深めるためには、まずその物語に身を委ね、面白がることが大切だと私は考えています。ただし、物語に没入するだけではなく、そこから一歩引いて自分を見つめ直す視点も重要です。研究でも学習でも、没入することと俯瞰すること、その二つの視点を行き来する力が大切なのではないでしょうか。
私は理工学部で英語の授業を担当していますが、学生にはよく「主語を意識すること」を伝えています。英語では、人だけでなく物事や概念が主語になる表現が多くあります。たとえば“The deadline got moved.”(締め切りが変更された)や“Workload is killing me.”(仕事の量が私を苦しめている)といった言い方です。日本語では人を主語にして表現することが多いのですが、英語では出来事の原因や状況を主語に据えることがよくあります。つまり、「何がその出来事を引き起こしているのか」という視点で状況を捉える習慣が自然な表現につながるのです。
この考え方は、物語を読むときにも役立ちます。好きな小説やドラマに夢中になることはとても楽しいものです。しかし、そこで終わらせず、「なぜ自分はこの場面に引き込まれたのだろう」「なぜこの人物に共感したのだろう」と一度立ち止まって考えてみる。自分の感情の出どころを観察し、それを言葉にしてみるのです。そうすることで、単に「面白かった」という感想にとどまらず、その経験が自分の思考として定着していきます。
授業でもこうした視点を意識した練習を行っています。自分の感じ方を俯瞰して考える習慣が身に付いてくると、学生の発話のスピードが上がり、言葉が自然に出てくるようになることがあります。没入と俯瞰を往復することで理解が深まり、表現の力も鍛えられていくのです。
ゼミでは、多摩川流域にある生田キャンパスで学ぶ意義を学生に考えてもらいたくて、「多摩川文化圏」というテーマを掲げています。学生自身の日常の経験と、多摩川流域の歴史や文学を結びつけながら考える授業です。個人の視点と地域の文化や歴史という大きな視点を行き来することで、自分が学んでいる場所との関係を見つめ直してもらうことをめざしています。実際に、ゼミがきっかけになって、生田で学ぶことへの愛着が深まったと話してくれる学生も多くいます。
日常生活の中でも、ぜひ自分の関心を大切にしてみてください。そして、好きなものに夢中になるだけでなく、ときには少し距離を置いて眺めてみる。その往復を繰り返すことで、物事への理解が深まり、関係はより豊かなものになります。感情的な共感と批判的な視点を行き来する姿勢こそが、知識を単なる情報ではなく、自分自身の思考へと変えていくのではないでしょうか。そうした姿勢が、学び続ける力を育てていくのだと思います。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
