人生で影響を受けた人物会話による“掛け算”を通して、別の視点を得よう
教授陣によるリレーコラム/人生で影響を受けた人物【58】
私はイスラム教に関わる思想を研究していますが、古典テキストの読み方を徹底的に教えていただいたのは東京大学・名誉教授の鎌田繁先生です。
イスラム教に関わるあらゆるテキストのベースとなるクルアーンは、意味が明白な部分もあれば、そうではない部分もあります。そのため、どう解釈していくかが鍵になりますが、大学時代は多くの量を短時間で読み解いていくことが当たり前でした。
しかし、大学院で受講した鎌田先生のゼミでは、一語一語かみしめながら読み解くスタイル。全く違う方法で衝撃を受けたのです。
例えば、クルアーン解釈のテキストが難解になると、先生は1時間近く沈思黙考。また、三文程度読むのに3時間かけることもありました。
先生が考え込まれると、私たち研究仲間も睡魔と戦い、時に負けながら、様々な読みの可能性を探り、一番しっくりくる言葉をみんなで選んでいきました。
また、これなら間違いないと思った訳を先生に提出した時には1時間沈黙。間違っていたのかと焦りましたが、解は決して1つではなかったのです。
解釈として一番しっくりくる表現は何か、誤解はないか、など、様々な方向から考えることを求められていたんですね。
今では、答えが1つではないことは理解できますし、そもそも正解がないということもあります。まずはいろいろな方向から考え、必ず全員に意見を聞く。先生はこれを徹底されていました。
私も授業ではなるべく全員の意見を聞くようにしていますね。意見の中には共通点や、いいなと思うところなど、必ずヒントになるものがあるはずで、そこを捉えることが大切だと感じています。
自分で知識を積み上げていくことももちろん大事で、それは足し算になると思いますが、私は人と話したり議論したりすることは、単純な増え方ではない“掛け算”の要素があると思っています。
どんなにくだらないことでも、とりあえず話をして相手を知る。人の意見に耳を傾け、別の視点も大事にする。これはビジネスシーンにおいても重要なポイントではないでしょうか。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。