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母語話者の意識が変われば、コミュニケーションは更に円滑になる

 日本語学習者の発話不安を取り除き、意欲を高めるうえで、聞く側である日本語母語話者の接し方が大きく影響していることが研究によってわかってきました。日本語学習者は「自分のことがきちんと相手に伝わらないのではないか」という不安を常に抱いています。日本語母語話者の方から「あなたのことを理解しようとしている。言語能力だけで評価しない」という姿勢を見せると、それだけでとても話しやすくなり、発話意欲も向上するのです。

 具体的な接し方としては、学習者の日本語のレベルに合わせて、平易な日本語を使ったり、「わかりますか」と確認したりすることが挙げられます。母語として自由自在に使える日本語を、外国語のように客観的に見つめ直して使う。こうして学習者と接することは、「母語である日本語」を使う私と「もうひとつの日本語」を使う私という2つのアイデンティティを持つことにもなり、つまり複言語世界を生きることになるとも言えるでしょう。

 そんな実践の場として、現在ゼミナールでは日本人学生と留学生がテーブルを囲んで話す「日本語カフェ」という国際コミュニケーションの場を開いています。回を重ねるごとに、日本人学生は相手に伝わりやすい日本語を自然に身につけていくのがわかります。また、留学生にとっては日本人学生と友達になり、日本語の実践的な練習になるだけでなく、日本語で気軽に話せる場所があるということから新しいアイデンティティの構築にもつながっているようです。日本人学生には複言語世界の寛容性を学ぶ場として、そして留学生にとっては困難の多い留学生活を支える場になっているのであれば、これほど嬉しいことはありません。

 最後に、もうひとつの日本語である「やさしい日本語」について紹介します。東京オリンピック・パラリンピック開催時に話題になった「やさしい日本語」ですが、そのきっかけとなったのは1995年に発生した阪神・淡路大震災でした。震災後の調査で、外国人の死傷者率が日本人の約2倍にも達したことがわかったのです。災害時、言語の壁による情報格差が生死を分けてしまうという事実が浮き彫りになったことで、一人でも多くの人に必要な情報を伝える方法を模索することが喫緊の課題になりました。日本に住む外国人といってもルーツはさまざまなので、その人の理解しやすい翻訳がいつでも提供できるとは限りません。そこで社会言語学者を中心に、緊急時に必要な情報をわかりやすい日本語で提供する方法が研究され、NHKや自治体等から「やさしい日本語」が広がっていきました。2024年に発生した能登半島地震の際、テレビで「津波がきます。今すぐ逃げてください!」と簡潔に繰り返していたのを覚えている方もいるかもしれません。災害時にメディアが「やさしい日本語」を使うようになったことは、本当に大きな進歩だと思います。

 このように、私たち一人ひとりが「どんな言葉なら伝わりやすいか」と考えて自分の言葉を変えていくだけで、お互いがさらにわかりあえるようになるでしょう。

 私が在外研究で滞在していたロンドンや、その他インド、シンガポール、ベルギー等、多言語が飛び交う土地に行くと、こちらの拙い言語に対して人々がとても寛容に接してくれるように感じます。そうした空気は、その土地の言語を習得しようと頑張っている外国人にとって、とても心強いものです。日本でも、言葉の「正しさ」ではなく「伝わりやすさ」をめざす姿勢を社会で共有できた時、多文化共生が理念ではなく、身近な日常になっていくのではないでしょうか。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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