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2025.11.13

理事がいない、修繕もできない……日本のマンションに迫る危機をフランス法を通じて考える

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海外の法律を知ることで、日本法の発展に寄与できる

 さらに、フランスでは集会における議決要件について、日本よりも細かく法律で定められていますが、近年はその要件が徐々に緩和されてきています。これは、伝統的に古い建物を長く使う文化が背景にあると考えられます。

 実際に、パリなどでは築100年以上の石造建築の建物が現役で使用されており、むしろ新しい建物より頑丈である場合もあります。一方、社会問題化した荒廃マンションは、1960~70年代に建てられた鉄筋コンクリート造の比較的新しい建物がほとんどだとされています。

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建築後100年以上経過したパリ市内のマンション
(2023年8月、撮影:鎌野邦樹早稲田大学名誉教授)

 しかし、いくら自然災害が少なく、伝統的な建物のつくりが頑丈であるとはいっても、やはり人が住んで暮らす以上は、いろいろと改修する必要が出てきます。

 改良や修繕工事の場合は、建物の一部を変更するわけですから、本来的には区分所有者の大多数の賛成が必要であるなどの、厳しい議決要件が求められると思われがちです。しかしフランスの場合、(個別の規定によりますが)たとえば過半数の議決で工事を決められるなど、要件が比較的軽くなっています。

 ちなみに、日本の区分所有法では、そのような議題に対してどれだけの議決要件が必要かということについては、あまり細かくは書かれていません。その意味では、日本よりもフランスの方が改良・修繕等についてフットワークが軽いとも言えますが、他方で、改正が頻繁かつ微修正が多いため、実務現場では対応が追いつかないという問題も生じているようです。このあたりは、一長一短と言えます。

 また、建て替えについては、フランスには日本のような「(原則として)5分の4以上の賛成で可」という規定はなく、事実上、全員一致が求められる可能性が高いです。この背景にも、建物を長く使い続けるという国民性があると考えられます。実際に、現地の方からは「建物に寿命などない」という意識も聞かれます。

 今後、日本においても管理組合の機能不全が顕在化していく中で、制度的なセーフティネットの構築は急務となると考えられます。フランスの制度のように、法的介入によってマンションの維持管理を支える仕組みの導入が検討される日も遠くないでしょう。その際に、海外制度を単に模倣するのではなく、日本社会の実情に合った柔軟な制度設計を考えることが、私たち法学研究者に課された責務だと感じています。

 外国の法律というものは、日本国内に住みながらでは、あまり意識されないかもしれません。しかし、実は、国内で将来的に起こる可能性のある法的課題への示唆を提供してくれることがあります。そもそも、日本法はフランス法の影響も受けて成り立っており、現代のフランス法の実践を学ぶことは、日本法の改善や改良にとって有益です。私は、今後もフランス法の研究を通じて、日本法の発展に寄与できればと考えています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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