「荒廃マンション」の法的対策に乗り出したフランス
一方、フランスの区分所有法には、「荒廃区分所有建物」に関する世界的にも珍しい制度があります。フランスでも区分所有者全員で管理組合を構成し、集会で意思決定を行う点は日本と共通しています。しかし、いざマンションが荒廃してしまったとき、どのような対応をとることができるのか、という法的な仕組みが異なっているのです。
1990年代、フランスでは経済停滞の中、失業者の増加や管理費滞納の広がりによって、バンリュー(大都市周辺の郊外)を中心に荒廃したマンションが増え、社会問題化しました。これに対応するため、法改正により「荒廃区分所有建物制度」が導入されました。
この制度では、マンションの荒廃を管理組合の機能不全と捉え、収支の均衡が著しく崩れる、あるいは保全が困難になると認められた場合、司法裁判官が「仮管理者」を任命します。仮管理者には多くの管理組合の権限が移譲され、債務整理や返済計画の作成、必要な修繕の発注などを行います。
いわば会社更生のような仕組みとして、段階的に正常な管理の回復を図る制度です。法改正によって、年々制度は強化されており、荒廃マンションの対策に一定の効果を発揮してきたとされています(ただし、全てがうまくいっているわけではないようです)。
現在の日本の状況は1990年代のフランスほど深刻ではないため、すぐに同様の制度を導入すべきとは言えません。しかし、将来的に高齢化や経済的要因により管理組合が機能不全に陥る場合がないとは言えず、その参考としてフランスの制度を知っておくことには意義があると考えます。
また、フランスの制度で特徴的なのは、管理者(サンディック)には不動産管理の専門業者が就任することが一般的で、「第三者管理」が主流である点です。
日本でも管理会社が実質的な提案を行うことは多いですが、フランスでは専門業者が管理者として法的に位置づけられ、第三者管理が制度として根付いています。加えて、日本では大手デベロッパー系の管理業者が多いのに対し、フランスでは地域に根ざした家族経営の中小業者が多く、それぞれの関係性や規模のイメージには若干の違いがあります。
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