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2025.09.11

大規模言語モデルを利用した、政策不確実性指標の開発

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過去と将来、自国と他国を識別する、大規模言語モデルを使った計測

 キーワードを用いた計測の問題を克服するため、我々の研究チームでは、大規模言語モデルを利用し、記事の内容から不確実性の有無やそのタイプを抽出する方法を開発しています。

 この研究では、まず金融政策に焦点をあてました。「金融政策の不確実性」には少なくとも2つタイプがあります。1つは今後の金融政策がどうなるかという不確実性、もう1つはこれまでとった金融政策の効果の不確実性です。しかしキーワードによる判定では、それらが分けられません。そこで私たちは、マイナス金利政策が2016年1月に導入されたことを鑑みて、2015年と2016年を対象に分析しました。

 この時期に注目したのは、2015年の初頭はインフレ率2%をめざしつつも達成できなかったことが取り沙汰されており、過去と将来、両方の不確実性を示す記事が混在していました。両方ともキーワードとしては同じものを含んでいますが、その記事が切り分けられていなかったためです。

 研究ではまず、チームの3名が記事を読み、過去か将来か、どちらについて書かれた記事なのかを文脈から判断し、議論のうえ仕分けていきました。さらに自国の政策なのか外国の政策なのかも分けられるようにしたのがポイントです。着地点として、「自国かつ将来のことについて言及している記事」を指標とするために、過去と将来、自国と他国を文脈の理解からタイプ分けできるようにするトレーニングセット、いわゆる教師データを作成しました。

 教師データとは、簡単にいえば大規模言語モデルに「こういう記事はこう読むんですよ」と学習させるためのデータです。最終的に、大規模言語モデルでも同じ観点で文脈を理解できるようにする元資料ともいえます。そういったものを200ぐらいつくり、大規模言語モデルに学ばせたファインチューニングモデルで、全体の記事を判別させました。

 その結果、過去と将来、どちらの不確実性の影響が強く出るのかが時期によって異なっていたことが判明。2016年の初頭は過去の政策についての不確実性を示す記事が多かったのですが、2016年の9月頃からは将来の政策に対する不確実性が高まってきていました。この指数がGDPや為替レートといった経済・金融変数の変化を有意に説明する変数であるか、今後、実証分析を進めていきます。

 将来の政策不確実性を示すために、さらに洗練された指標をつくっていきたいと考えています。現段階では教師データをつくるのは大変な作業ですが、もっと簡略化しても識別できるような方法を開発していければ、リアルタイムで情報を提供できることにもつながるはずです。不確実性を少なくしたほうが、人々も企業も将来の計画を立てやすくなります。また、不確実性が高まったときには、政府は国民により丁寧に政策を伝える必要があるわけで、そのことを知らしめる手段としても役立つはずです。政策不確実性のより正確な計測から、社会に貢献できればと願っています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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