運動が苦手でも、日々の積み重ねで身体活動量は補える
一方、個人の取り組みとしては、やはり日頃から小さな身体活動をコツコツと積み重ねていくことが大切です。
近年では、就業中にブレイクタイムとして、ちょっと体を動かす時間を取り入れたり、スタンディングデスクを導入する企業が増えていますが、これは生活活動の面および座りっぱなしを防ぐ観点からみて効果的だと思います。あるいは、オフィス内の動線を変えることで意識して移動を増やしたり、エレベーターではなく階段を使うなど、ちょっとした工夫によって、身体活動の機会は創出できるでしょう。
実際にWHOも、1日60分以上の歩行以上の身体活動を目指すには、3分や5分といった小刻みなちょっとした身体活動の累積でも構わないと指摘しています。たとえば、車を運転してショッピングモールに行ったとしたら、入り口からあえて遠い駐車場に停めたり、モールの中でも目的の店以外も歩いて見てまわるなど、わずかでも身体活動を増やす意識が重要なのです。
また昨今では、ジムや自宅で気軽に筋力トレーニング(レジスタンス運動)を行うのが継続的なブームになっています。筋トレは筋力や心肺機能を改善させ、生活機能の維持・向上だけではなく、疾患発症予防にもつながると報告されています。
前述した厚生労働省「健康づくりのための身体活動・運動ガイド」の最新版にあたる2023年版では、はじめて筋力トレーニングへの言及がなされました。ウエイトトレーニングや自重トレーニングといった筋トレを、成人及び高齢者の場合は週に2〜3回実施することが推奨されています。
24時間営業のジムなどで、空いた時間に手軽に筋トレができる環境になっていくのは非常に好ましいことです。ただし、昼間に働いている人が深夜に運動をするのは、あまりお勧めはできません。とくに、睡眠の直前に運動するのは身体にかかる負担の観点から望ましくないとされています。
さまざまなライフステージによって、身体活動と関わる場面は変わっていきます。張り切って運動をするだけが、健康に寄与する身体活動ではないということを、ぜひ知ってほしいと思います。健康を目指して体を動かすことの敷居は、多くの人が想像しているよりもずっと低いのです。そして何より、身体を動かすことの楽しさや心地よさを感じることが大切だと思います。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。